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11.森の奥で~遭遇~

読みやすいように全体修正 内容変更なし

「うぁああああ」


 キオの叫び声を聞き、俺は急いだ。

 視界に腹から青い液体をこぼしながら、キオに襲い掛かる二本角の姿が見えた。

 助けるか? いやリリーが既に動いている。

 彼女が力強く引いた弦により、弓がしなり――張り詰めた力が解放された。

 一瞬の風切り音と共に、二本角の額に、矢が深々と突き刺さる。

 致命を受けた二本角が力を失い、キオの体に圧し掛かる。

 大丈夫だったようだ。

 キオとリリーに気付かれないように、老夫婦の元へと向かう。


「とりあえず、大丈夫だったみたいですね」

「キオちゃんが危ない戦い方をしてねぇ。もう心配で心配でねぇ、お爺さん」

「うむ」


 二人はキオの戦い方に、ハラハラしていたらしい。

 それでも手を出さなかったのは、彼らの経験を考えてのことだろうか。

 こちらに気付いたキオとリリーが、駆け寄ってくる。


「先輩やったっすよ! 二人で倒したっす」

「無茶しただろ。油断もしたな」

「うぐっ! それは……身をもって反省したっす……っす」

「まぁ、三人に怪我もないし、盾は……ボロボロだな。キオも、少しの怪我で済んで良かったよ」

「怪我? してないっすよ」


 キオの左腕から赤い血がポタリと落ち、草を染める。

 こいつ、自分の腕の怪我に、気が付いてないのか。


「キオちゃん。腕の傷、治してあげるから、こっちにおいで」

「婆ちゃんまで、俺怪我してないっ――腕から……血が出てる? あれ? これ痛いっす。ちょっと、いや結構痛いっす」

「だから、こっちにおいで」


 騒ぐキオを急かすように、ムル婆ちゃんが、杖で地面を叩きだした。

 涙目のキオが、ムル婆ちゃんの横に座る。

 彼の傷ついた腕に、ムル婆さんが手を当て――


「我らを見守りし太陽神様、御身の癒しの力を分け与え(たま)え。≪治癒(ちゆ)(ひかり)≫」


 ムル婆ちゃんの手に、温かな光が灯る。

 光に照らされた傷が、見る見るうちに塞がっていく。

 傷を負った状況の、逆再生でも見ているかのように。


「ふぅ。もう大丈夫ですからねぇ」

「婆ちゃん、回復術士だったんっすね」

「そうなの。師匠って凄いでしょう」


 回復術士は、俺たち魔術師とは違う系統の、太陽神の恩恵を使う教会の術使いだ。”太陽神の加護を受けて産まれた”とされる人々が、教会にて洗礼を受け、その後、教会内で修練を積み、回復術士となる。

 彼らを『魔法使い』や『魔術師』と呼んではいけない。

 機嫌を、すこぶる損ねる。


「若い時ならもっと、すーって治せたんだけどねぇ」

「いや、凄いっす。婆ちゃんカッコいいっす。俺の仲間にも一人いるっすけど、こんなバッチリいかないっすよ」

「こんなお婆を褒めても、何もでませんよ。ほら、先を急ぎましょうねぇ」


 ムル婆ちゃんは杖を突きつつ、自分の足で歩き始めた。

 目的地まで近いのだろう。

 ボブ爺ちゃんが、ムル婆ちゃんの前を歩く。

 二人の背中は、どこか嬉しそうに見えた。




「リリちゃん。これが木霊(こだま)の花ですよ」

「え? 師匠。花咲いてないよ」

「この時期、落花するから、落ちた花弁を一緒に探しましょうねぇ」

「はい、師匠」


 他の木より幹の大きな樹木の下で、ムル婆ちゃんとリリーが、薬草採取に勤しんでいた。その後ろでキオが、周囲を警戒している。

 一方、俺とボブ爺ちゃんは、少々気になる動きを見つけていた。

 この森に住む野生生物が、先程から姿を見せては、逃げていく。


「こっちを完全に無視して逃げてますよね」

「ああ」

「この先あたりを縄張りにしているのって?」

「フォレストタイガーだ」


 木の上で生活をする、全長が人一人半程度の大きな虎だ。

 彼らの縄張りには、冒険者でも近づかない。喰い殺されかねないからだ。

 その(くだん)のフォレストタイガーが、視線の先を駆けている。

 そして森の奥――いや俺たちが来た方向だから森の手前か――に消えていった。


「俺、見てきますので。みんなは町の方へ」

「危険なら、かまわず逃げろ」

「はい。いってきます」


 野生生物が逃げる方向に逆らい、俺一人で進む。

 (かす)れた音と共に、遠くの木々が揺れる。こちらに近付いてくる。

 剣を抜き警戒する俺を、樹木の上から金の瞳が見下ろしていた。

 フォレストタイガーだ。先程見た個体よりも大きい。

 堂々とした(たたず)まいに、威圧感を覚えない人間はいないだろう。

 だけど、こいつじゃない。


「グガァアァアアアァァアァ」


 突然の咆哮と共に、遠くで魔力が膨れ上がるのを感じた。

 この距離でもわかる大きさ。奥にいる何者かの標的は――


「≪風精霊(かぜせいれい)封壁(ふうへき)≫」


 木の上のフォレストタイガーと正体不明の魔力との間に不可視の壁を展開した。

 若木や枝を砕きながら、何かが飛んで来た。

 あれは(なた)だ。

 大鉈(おおなた)が回転しながら飛翔し、封壁と衝突した。

 キィユンと奇怪な音を上げて、破壊される封壁。

 が、軌道が逸れた大鉈が、目標をとらえることはなかった。

 フォレストタイガーは、我関せずといった態度でその場を立ち去る。

 飛び移る先々の木々が、揺れている。何て速い逃げ足だ。

 こちらは、逃げる選択はない。

 これが、人の生活域から遠くの出来事ならば、彼らと一緒に逃げるのが良いのだろう。だが、ここは町に近すぎる。

 正体不明の敵に近づきながら、考える。大鉈を投げつけるモンスターの正体を。

 武器を使うと言うことは、最低限人型であろう。

 モンスターが振るう武器は鉄や鋼などではなく、純粋に魔力の塊だ。

 形が人間が使うそれと似ているだけで、牙や爪と同類だ。

 だが、それを飛ばして利用してくるモンスターならば、進む先にいる正体不明の敵の手には、既に大鉈が握られていると考えるべきだろう。

 オーク、トロル、ゴブリン、コボルト、オーガ、スケルトン、リザードマン、ウェアウルフ……ゴーレムやジャイアントでは流石にないだろう。

 真昼間だから、ヴァンパイアも除外していい。

 ああ、結局わからない。

 あの遠くからでも感じられた魔力。さらに、急場で作ったとはいえ、俺の風精霊の封壁を、簡単に破壊する威力の大鉈。

 この辺りに現れるモンスターの強さではない。


「出たとこ勝負か」

「グゥガァアアァァアァァァァァ」


 耳障りで大きな咆哮と共に、魔力の流れを感じた。近い。

 大鉈が飛んでくるだろう。目標は俺しかいない。

 先程破壊された封壁よりも、硬く、強く、そして――


「斜めに、≪風精霊(かぜせいれい)封壁(ふうへき)≫」


 木々を粉砕しながら飛んできた大鉈が、生み出した壁に阻まれ弾かれる。

 威力の弱まった大鉈が木の幹に突き刺さり、そして溶けるように消えていった。

 破壊された木々を見れば、俺の目標がどの方向にいるのかが、丸わかりだ。

 発見した。既にその手には、大鉈が見えた。あのモンスターは――


「ヘヴィオーガかよ……何でこんな所にいるんだ?」

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