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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第二十二章

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1002.大蛇の毒と戦いの神~黒き空を跳ぶ~

文章修正

 魔法により地を蹴り大きく跳躍した体が、空中にて矢を放たんとしている戦いの神へと一直線に飛ぶ。

 交差の瞬間、払う俺の剣が、神の持つ黒き弓に深紅の炎を刻む。

 その一撃にて燃え上がった弓は、神の手から離れ、炎の中へと消えていく。

 だが、剣が届いたのは弓だけ。

 神は己が身を空中にて自在に操り、スッと横へと(すん)での所で(かわ)していた。

 跳躍の勢いをそのままに上昇を続ける体を、戦いの前に使っていた魔法『風の羽』を(もち)い、急ぎ神へと向き直る。

 そして、俺の身を(えぐ)らんと迫る矢を、燃える剣で斬り落とした。

 視線の先には、宙に浮いたまま素手で矢を投擲した神の姿。

 俺は空中に生み出した魔力の塊に背をぶつけ、跳躍の勢いを殺し、同時に生み出した魔力の足場へと着地した。

 神を見下ろす俺と、俺を見上げる神の視線が黒き空で(まじ)わる。

 俺が魔力の足場から神へと飛び込んだ瞬間、神もまた真っ直ぐ俺へ向け空中を浮遊し始めた。

 神の両手には、新たに一本の黒い大剣が握られていた。

 落下と共に振り下ろす剣と、上昇と共に斬り上げる黒き大剣が重なり、衝撃が俺の体を空中へと吹き飛ばす。

 俺は風の羽で体勢を整え、作った魔力の足場を即座に蹴り、神へと向かう。

 休む暇もないが、休ませるつもりもない。

 俺達の下では、バルザックさん達が黒の戦士達と戦っている。

 こっちは俺の役目だ。 

 宙を自在に動く神と空中で一つ斬り結び、離れ、再び接近し二つ斬り結ぶ。

 神の振るう大剣と、剣を三度重ねて気付いた。

 得物から伝わる力が弱まっている。

 それは空中ゆえに踏ん張りが効かぬのか、それとも左肩から右腰までを赤々と燃やしている炎が、大蛇(おおへび)の毒を焼き続けているからか――理屈を考える必要は無い。

 俺はただ、攻めるだけだ。

 何度でも神の武具を破壊し、その身に炎を刻む事を狙う。

 五度目の交差により限界を迎えた黒の大剣を、戦いの神は宙へと放り投げた。

 空中で炎に飲まれ消える大剣を、神は一瞥(いちべつ)すらしない。

 ただ駆け寄る俺を見つめながら、周囲に魔力の展開を始めた。

 瞬間、放たれた魔力が、俺に神の転移先を教えてくれる。

 それは、上下左右、空中で戦う場全てを包み込む膨大な魔力。

 ミュール様と同じ戦いの神の魔力が、数えるのも億劫(おっくう)になる程に周囲に満ち(あふ)れている――その中に、違和感が二つ。

 それは、空中を走る俺の進行方向の上に生まれた二つの魔力。

 その隠すような魔力から、神は必ず何かを仕掛けて来る。

 俺は、神より投擲(とうてき)されし二本の手斧を(いち)()と切り捨て、前へ跳んだ。

 跳躍した体を風の羽で無理やり向きを変え、正面を黒い空へと向ける。

 視界に映る黒の空に、突如、銀の(くさり)が生まれた。

 黒の空で、一際(ひときわ)輝く銀。

 あれは、ミュール様を拘束していた鎖か。

 迫る二本の鎖を急ぎ切り払い、拘束を拒絶する。

 鎖を伝い、黒の空に炎が走った。

 俺は風の羽を(もち)い、消滅する鎖から神へと向き直り、その(ひるがえ)す力を込めた上段の(いっ)(とう)を神へと振り下ろした。

 新たに出現させた黒き双曲刀を片手ずつ握り、神はそれを上方にて重ねる。

 左右から重なる双曲刀の一点と、燃える剣が重なる。

 一瞬の静止。

 止まった俺の剣を、双曲刀が上方へとかち上げる。

 上へと跳ね上げられた剣を手放さぬよう、俺は強く両手へ力を込めながら、急ぎ回避運動を取った。

 無理な俺の攻めを(とが)めるかのように、双曲刀が平行に()ぐ二連撃を生む。

 俺の胸と腹に鋭い痛みが走り、腫れを感じるほどに熱が(あふ)れ出す。

 だが、回避が間に合った。

 これでは死なない。

 浅い二連撃により、裂けた肉から人の命たる赤い血が流れ落ちる。

 けど、それだけではなかった。

 感じる。

 この傷から、体を(むしば)もうとする(よど)みの魔力を。

 俺の自由を奪おうと暴れ狂う魔力を。

 俺は、生み出した魔力の足場に着地すると同時に前へと駆けながら『今すぐ炎で焼くか?』と考え、二歩目を踏み出す時には既に、その考えを捨てていた。

 ドレイク先生を信じよう。

 血止めもせず、神の魔力に集中しながら、双曲刀の連舞と剣を重ね続ける。

 宙を泳ぐ様に自在に動き、転移を(まじ)え、前後上下左右より襲い掛かる神の舞。

 だが、一刀一刀は軽い。

 それに剣を重ねる回数が多いという事は、双曲刀の破壊も早いという事。

 優雅な舞の途中で双曲刀を失った神へ、(かん)(はつ)入れず、突きを放つ。

 神の胸元へと進む俺の突きは、皮の盾の曲面に易々(やすやす)()なされてしまった。

 だがその盾は、あと何回耐える?

 深紅の炎を嫌う様に俺から離れる神を、俺は追わなかった。

 周囲の魔力に変化が生まれていたからだ。

 転移用の魔力が次々と増える様を感じながら、神の行方を目で追う。

 だが、それが戦いの神の魔力ではないと、不思議と理解していた。

 ミュール様が何をしようとしているのかも、その魔力から伝わって来る。

 そして、俺の背に生まれる魔力。

 転移してくるのはミュール様か? 将又(はたまた)、戦いの神か?

 決まっている。

 視界の先で、美しい鎧姿には似合わぬ大棍棒を出現させる戦いの神。

 そして、俺の背後に転移してきたミュール様が、俺の肩にそっと触れた。


「では、追い込みましょう」

「はい」


 追加で呪文を唱えず、ミュール様が俺を連れて転移をする。

 (またた)くよりも早く、周囲に移る全てが塗り替わり、感じる魔力の相対位置がずれを生む。

 そして目の前には、戦いの神が――転移から()()けず放った振り下ろしを、神は大棍棒にて受け止めた。

 お返しとばかりに、俺とミュール様を大棍棒でまとめて吹き飛ばさんとする神。

 だが次の瞬間には、俺とミュール様は別の場所へと転移していた。

 その振るわれ、(くう)を薙ぎ払う大棍棒の、真反対。

 俺は、黒き鎧に守られた神の背へ一閃を刻み――深紅に燃える剣が背を裂く途中で、神の姿が消えた。

 転移した先は分かっている。

 大棍棒と盾、そして身に刻んだ炎が、神の居場所をありありと俺に教えている。

 だが、遠く逃れた神の元へと駆け出す必要はない。

 ミュール様の連続転移が、神を追う。

 そう。もう目の前に。

 俺は、一瞬一瞬で移り変わる状況を把握し、判断し、神へ剣を打ち込み続けた。




 バルザックの鉄塊の如き大剣が、迫る鉄球を弾き飛ばした。

 バルザックは鉄球の衝撃に怯む事も止まる事もなく、正面に居るオーガ染みた黒い戦士へと踏み込んだ。

 手足を鉄球付き鎖で繋がれた黒い戦士は、その巨躯(きょく)を惜しみなく使い、弾き飛ぶ鉄球に引っ張られる己が体をものともせずに、迫るバルザックを捕らえようと両腕を突き出した。

 だがその動きは、バルザックからすれば緩慢(かんまん)でしかない。


「オラァ」


 怒声と共に振り下ろされた大剣が、黒き戦士の巨躯(きょく)を頭から股まで一刀両断し、その姿を瞬時に塵へと変えた。

 バルザックは黒の大地を砕いた大剣を構え直しながら、ポカリと空いた周囲へ目を向け戦況把握に(つと)める。

 戦局は、悪くない。

 戦士一人一人の腕は圧倒している。

 なにより気力に満ち(あふ)れた戦士達を止める事など、意志なき敵には無理な事であると、命の奪い合いを生業(なりわい)にするバルザックは知っていた。

 時折出現する強き影にも戦士達は対処出来ており、バルザックも自由に動ける戦場に満足していた。

 そして戦場に響く、魔術師達の声。


「――暴虐(ぼうぎゃく)たる()(もの)へ、慈悲無(じひな)一撃(いちげき)(いま)此処(ここ)に、≪雷帝(らいてい)閃光(せんこう)≫」

「あれじゃ援護できないじゃない。もぅあんたらでいいわ。≪炎帝竜(えんていりゅう)(さば)き≫」


 タキオンの声に合わせ雷鳴(とどろ)き、黒き空より落ちる光が戦場にて大きな爆発を起こし、群れを成す戦士達を破壊し尽くす。

 そして、サラスの吐き捨てる呪文により赤く巨大な柱が大地より立ち昇り、柱の中に巻き込まれた戦士達を消し炭へと変えた。

 魔法を放っているのは二人だけではなく、後衛を守る白い壁の内側から次々と呪文が唱えられ、黒に染まった戦場を色付かせている。

 バルザックは、サラスの苛立ちに共感しながら空を見上げた。

 バルザックの見上げた空に、突如として現れる神。

 神を逃さぬとばかりに、これまた突如としてミネルヴァと共に空中に姿を現したマルクが、神へ向け炎の剣を振り下ろす。

 一度の接敵。一度の斬撃。

 そして再び消え、別の場所に現れる神とマルクとミネルヴァ。

 転移に()ぐ転移。

 一流の戦士たるバルザックですら、地上から目で追うだけでも苦労する動き。

 ならば(そら)では……バルザックは、サラスの言う通りあれに手を出しても邪魔になるだけだと、溜息と共に(そら)へ向け愚痴を放った。


「チッ。またこんな役回りかよ。まっ、マルクだしな」


 戦士の顔に笑みを浮かべたまま(そら)を見上げるバルザックへと、黒き戦士達が群がり始める。

 黒き戦士達が肉薄と共に、直剣を振り上げた――瞬間、バルザックの大剣が目にも止まらぬ速さで戦場に大きな弧を描き、黒の戦士達をまとめて消し飛ばした。

 バルザックは、今まさに消えゆく戦士達と、周囲に満ちた限りなき黒の戦士達を見て、思う。

 この黒の戦士達も神の仕業なのだとしたら、この戦場を(たい)らげるのもマルクの助けになるな、と。

 バルザックは意気込み新たに一騎当千の力を思う存分振り回し、黒の戦場にて暴れ始めた。

 次の獲物を、強き影を求めて。

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