第4話 おんなじ二人、だけど違う
ダイチはマホに手を引かれていた。マホの手は小さく、暖かかった。
程なくして、小さな部屋に着いた。そこでマホの足は止まった。
「こっち。」
マホは中に入る。ダイチも付いていく。
すると中には、小さな台座が一つだけあった。
「なんだ、これ」
ダイチは近づき、台の上のガラスケースを覗き込んだ。すると中には、親指くらいの小さな球体が置かれていた。その球体は、どこまでも広がる海のように青く、淡い光を放っていた。
「すげぇ…」
「これが、青い宝玉よ。」
マホはそう言うと、その小さな手でスカートを抱えて、台座の前にしゃがみ込んだ。
「ダイチ君、じ、実は私ね、ダイチ君と同じなんだ」
「え?」
「私の弟も、怪物に襲われたのよ。」
ダイチは驚いた。その顔をマホが見る。髪の毛と同じ、黒色の綺麗な瞳だ。
「命は助かったんだけどね、後遺症で右足が動かなくなったのよ。とても悔しかったわ。あの時、わたしが、あの子を助けられていたらって…」
「だからね、私、強くなろうって思ったの。弟も、友達も、私の好きな人をみんな守れるようにって、理守隊に入ったのもそのためよ」
マホは立ち上がった。
「だからね、私、ダイチ君がここに入った理由を聞いた時、ちょっと嬉しかったんだ、私と同じような人もいるんだって。ほら、みんな、エスコルタが人を襲うって言っても信じてくれないじゃない」
(いや、俺とお前は違うよ…)
ダイチはそう言いかけた。そう。マホは自分の為ではなく、みんなの為に頑張っているのだ。自分の復讐の為に理守隊に入ったダイチとは違う。しかし、ダイチはこう答えた。
「そうか、お互い、頑張ろうぜ。」
人見知りらしいマホがせっかくダイチに秘密を打ち明けてくれたんだ、きっと勇気を出したに違いない。それを否定したくなかったのだ。
「うん!」
マホは笑った。この子には、笑顔が似合う。
「って、何語ってんだろ、わたし。は、恥ずかしいぃ…」
マホは自分の発言を思い出したのか、顔を真っ赤にした。
「ははははははは」
「ちょ、ちょっと、笑わないでよね、ダイチ君!」
マホは怒って、頬を膨らませた。かわいいなぁ。
しかし、廊下から足音が聞こえた瞬間、マホは表情を変えた。
「ダ、ダイチ君!隠れて!」
「はぁっ!?」
マホは驚くダイチの手を掴むと、部屋の奥にあったソファーの裏に隠れた。
『ちょ、なんだよ、いちいち隠れなくてもいいだろ!』
『こ、この部屋は上層部以外は立入禁止なのよ、ごめんね!』
ダイチとマホは、ほぼ抱き合うような形で、狭い空間に潜んでいた。マホのいい匂いがする。ダイチは少し興奮した。
足音が近づく。二人の鼓動もそれに比例して早まった。
部屋に入ってきたのは、総隊長のジジイと、艦長の金髪姉さんだった。
「総隊長、あの子が“選子”なのですね。」
「ああ、間違いない。我々の願いの要だよ。」
『選子・・・?』
ダイチは首を傾げた。しかし、自分のことを話しているのだろう、と思った。
『ダイチ君!もっとしゃがんで!』
マホが小声で言うと、ソファーからはみ出していたダイチの頭を引っ張った。するとダイチの顔がマホの胸に押し付けられた。こいつ、意外とーーーーーー
「しかし、初陣からエスコルタを倒すとは、凄い才能ですね。」
マホの柔らかい胸がダイチを包む。
「当たり前じゃ。あいつの孫じゃ、それくらいやってもらわんと。」
おっぱいで全く話が入ってこない。でも今孫って言ったよな、じいちゃんがなにか…
「まあよい。これであと6匹じゃ。」
総隊長はガラスを触り、中の青い宝玉を見つめた。
「はい。我々の願いを、叶えましょう。」
そう言うと二人は部屋から去っていった。
「はあああああああ!」
ダイチとマホは、ソファーの裏から出ると、大きなため息をついた。
「ご、ごめんね、私のせいで…」
マホは顔を赤く染めながら謝った。
「いいんだよ。でも危なかったなぁ〜」
マジで危なかった。理性が。
「あ、そうだ、ダイチ君の部屋に、案内しなきゃだね、」
そういえば、俺、ここで暮らすんだったな。ダイチは思い出した。
二人は廊下をしばらく歩いた。
「ここが、ダイチ君の部屋」
中は思ったよりも広いワンルームだ。キッチンやシャワー室もある。
「じゃあ、また明日、ね」
「そんじゃあ、これからよろしくな、マホ!」
「うん!」
マホの笑顔が、廊下の窓から差し込む光に照らされ、輝いて見えた。
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