第1話 始動
「どうすんだよ・・・」
少年は一人、古びた木刀を抱えて埼玉某所の市街地に立ち尽くしていた。
「バイトはクビになるし、家は追い出されるし、ひったくりに有り金全部取られるし……俺まだ高校生だぞ!?こんなとこで死にたかねえよぉぉぉぉぉ!!!」
静かな街で、叫ぶ少年。
そんな泣き言を言っても道行く人は振り返りもしない。現実の厳しさを感じながら少年は、
「しゃーない、亮司に金でも借りるか」
と、友人の家に歩みを進めようとした刹那、駅の方向から地を裂くような轟音が鳴り響いた。
グオオオオオオオオオオンンンンンン!!!!!!!!!!!!!!!
少年は震えた。
喚く人々、揺れる大地。平和だった街は、一瞬で阿鼻叫喚の地獄と化す。
「なんだよ...これ…」
嫌な予感がした。少年は駅の方へ走る。
「おい、そっちにいくな!ヤバイのがいるぞ!」
少年は逃げ惑う人の声を気にも留めず走る。駅のに着いた時には、彼の息は上がっていた。
そこにいたのは、小学校の体育館程の大きさの、怪物だった。
怪物はイノシシのような体をしており、顔は鬼のお面のような恐ろしい形相であった。
「グオオオオオオオオ!!!!!」
怪物は目の前の戦艦に襲いかかった。自衛隊のものだろうか。駅前の駐車場に停まっていたのだ。
「あれってやっぱ…」
「そう、エスコルタよ。」
そう答えたのは、少年と同い年くらいの少女だった。
「私は千種花菜。よろしくね、星ヶ丘大地くん。」
「俺の名前…」
困惑するダイチに、ハナはこう続けた。
「今からダイチ君には、私と一緒にこの化け物と戦ってもらうわ!」
「えええええええええええええええ!?」
悲鳴が響き渡る。
「いや待てよ、そんなん無茶だろう?」
「そう思って、これを持ってきたわ!」
ハナは紺色のブレザーの胸ポケットから、赤いお札を取り出した。
「ダイチ君、これは霊符と言ってね、これを君の木刀に貼ると、“神力”が使えるようになるのよ。聞いたことあるでしょう?神力よ。」
ダイチは祖父の言葉を思い出した。
『ダイチ、お前にもいつか「神の力」が使えるようになる。その時まで、この木刀を離さずもっとるんじゃぞ。』
(じいちゃん、急すぎんだろ…)
ダイチは心の中で祖父を恨んだ。エスコルタは依然戦艦に体当たりを続けている。
「なあ、俺がもし戦わなかったらどうなるんだ?」
「まあ、あの子の目的は私たちの青い宝玉だから人を襲うことはないわね。でも、この近辺の逃げ遅れた人は何人か巻き込まれて死ぬわね。」
「人を襲うことはない、か…」
ダイチはそう呟くと、腰から木刀を抜いた。
「いいぜ、その話乗った。やってやるよ。」
「ほんと!じゃあ早速霊符貼って!時間はないよ!」
「ああ!」
威勢のいい返事とともにダイチはハナから受け取った霊符を木刀に貼る。
すると、ダイチの木刀から強い風が起こった。
「んだよこれっ…」
「あなた、多分“風の力”ね。試しに振ってみなさい。」
ダイチは刀を振るった。すると、刀からとてつもない突風が起こり、ダイチ達の目の前にあった車が吹き飛ばされていった。
「これが、神の力…」
「じゃあ行くわよ!」
ハナはエスコルタに飛びかかると、腰に刺さっていた真剣を抜き、敵の頭を切りつけた。
「うおおおおおお!!!!」
ダイチも見よう見まねでエスコルタの後ろ足に切りかかる。しかし躱され、ダイチは自らの風圧でバランスを崩し、コケてしまった。
「いってぇ〜…なんだよこの風、使えねーじゃんか」
そう呟くダイチに、エスコルタが襲いかかる。エスコルタはダイチの方を向くと、突進してきた。
「あああああああああああああああ!!!!!!!!!!、」
死を覚悟したダイチは走馬灯を見た。
賭け麻雀に負けた日、スキーで肋骨を折った日、じいちゃんと立ちションをしてクマに襲われた日、両親がーーーーーーーーーーーー。
(俺の人生、しょうもねえなぁ…)
「花鳥の舞、春!」
気がつくと、エスコルタは前足が無くなったエスコルタが、悲鳴を上げていた。
「何ボサッとしてんのよ!あんたまで死ぬよ!」
怒るハナ。状況を理解したダイチ。
「すまねえ、一回死んでたわ。」
「はぁ!?」
「おりゃああああああああ!!!!!!!!」
ハナの一言で正気を取り戻したダイチは、苦しむエスコルタに斬りかかる。
「ダイチ、跳べ!跳んで顔を切るのよ!」
「おう!」
ダイチは地面に向けて刀を振るった。風圧で体が浮く。目の前には、エスコルタの鬼の面のような顔があった。
「お前らは、みんな死ねええええええ!!!!!!!!」
ダイチが木刀を振り下ろすと、エスコルタは硬直した。
刹那、エスコルタの巨体は塵と化し、駐車場一帯に散らばった。
「やればできるじゃない。」
「ああ。」
そう答えたダイチの顔は、歓びと哀しみの入り混じった表情であった。
お読みいただきありがとうございます。
初投稿のため拙い文章ですが、お楽しみいただけると幸いです。