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A.けれど、僕は君のいる世界を望む

A.この世界に残り続ける。



「俺は、このまま彩花と共に過ごしていく」


「それでいい。お前をこのままこの世界に残したくない」


 千葉は少し嬉しそうに、そして少し悲しそうな眼差しでもう一度聞いてきた。


「なんで・・?ここは夢の中なんだよ。どうしたって現実じゃない。現実の世界じゃないところで住んでいて、トモは、それでいいの?」


「逆になぜダメと決めつけるんだ?イブにイルミネーションを見に行ったのも、こうやってモールへ行ったのは他でもない、ここにいる彩花しかいないじゃないか」


 俺は彼女の首から吊り下げている宝石を指す。


「永遠でもいい。構わない。彩花が彩花であることには変わらないんだ」


 千葉は瞳から一筋の涙を溢して言う。その姿は、今までの取り繕ったあの陽気な彼女の欠片すらなかった。


「・・だって、私は私じゃない。あなたが知っている私だけど。現実の私じゃない」


 唇を震わせながら、肩に力を込めて話す千葉。


 痛いを通り越して痛覚が麻痺しそうなくらいに、身を千切らせながら声を出すように。


「本当の私じゃないのに・・夢の中の空想にしかすぎないのに。それでも、この世界に留まり続けるの?」


「ああ」と即座に俺は答える。


「時間なんて概念は消えてしまえばいい。俺はいつまでも彩花の傍にいられるのならそれでいい。それだけでいい。これ以上にない幸せだ」


 泣きじゃくる千葉を前にして、俺はそっと彼女を抱きしめながら。


 そうして俺の世界は終わることなき、「永遠」と化したのだった。








 とある病室。


 大学付属の総合病院の一室に、一人の男と女がいた。だが、男の方は真っ白なベッドの上で仰向けになっており、顔はマスクで覆われていて、チューブがとある機械に繋がっている。瞼は閉じたまま。ただ一定間隔の呼吸音と心電図から発せられる単調な響きだけが部屋を満たしていた。


 女は折り畳み式の椅子に俯き(うつむき)ながら座っている。


 時刻は夕刻。


 窓から差し込む光がベッドを赤橙色に染め上げる。


 俯いていた女は一言、耐えきれず溢れ出てしまったように口から言葉を出す。


「どうして・・・・なんで、そんなことしたんだよ。ねぇ、トモ・・」


 そう、溢した時、繰り返していた単調なリズムは一転。


 

 消え去ってしまった。

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