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宇宙の敵、地球の敵

作者: 湯気

宇宙戦争が勃発した。

敵は銀河系より向こう側の地球人にはおおよそ観測できない程、遠くからやってきたようであった。

人間を細長く伸ばし、余計な部位を捨て去ったような姿をした宇宙人たちは来襲直後、彼らに接触した役人二人にこう告げた。

「地球を貰いに来た」と。

数時間後、その言葉通りに宇宙人たちは戦闘用のスーツを着用し、円盤やレーザー銃といった、人間には太刀打ちできない兵器を用いて攻撃を仕掛けてきたのであった。

しかし、地球側は世界の垣根を越えて結託したのである。

「数は力なり・・・・・・だな」

宇宙人討伐、アメリカ第三グループに所属していたデイヴは、同じグループに所属していたマイクにそう話したのを記憶していた。

戦いは多くの犠牲者こそ出したものの、地球は救われたのであった。

しばらくは復興の日々が続いたものの、問題は新たに起こり始めた。

死んだ宇宙人たちの兵器を我が物とした暴徒が現れたのであった。

家や財産、家族、恋人を失い自暴自棄になった者たちが己の欲望を満たすための要求をしてきたのである。

デイヴは今、暴徒を抑えるべく再び戦地へ赴く事となった。


アメリカの内の一地域を奪取する任務を与えられたデイヴは、トラックの荷台に乗り込み到着の時を待っていた。

「クソ!なんだってまた危険な地帯に行かなくちゃならねえんだ!」

デイヴと共に死線を越えてきたマイクが隣でぼやく。

「仕方がないだろう?それにこれが終われば今度こそ休むことができるぞ」

「そうは言ってもな・・・・・・根っからの軍人でない俺たちにこんな掃討作戦を任されても困るっていうもんだ」

「それには同意だな。だが、宇宙人との戦闘で人員が随分減っているらしいから仕方がないさ。それに指揮を執るのは海軍出身の大佐らしいからな。一般人ばかりの宇宙人との戦いと比


べれば楽なもんだろう」

「早く帰って家族と共に過ごしたいよ」

マイクがそう言い終えると車が少し揺れた後に止まった。二人は目的地に到着したことを感覚的に悟る。

「お前たち!早く降りろ!ここからは徒歩で移動するぞ!」

先ほどデイヴたちが話題に挙げていた海軍上がりの大佐が怒号で兵士たちのしりを叩いた。

デイヴたちも急いでトラックから降り、整列する。

「よし!ここから先は戦場だと思え!いつどこから敵が攻めてくるか分からんぞ!気を引き締めてかかれ!」

「イエス!サー!」

お決まりの返事をした後、デイヴらは互いをカバーしながら進んでいった。

そこで、デイヴはある事に気づく。

「ここは・・・・・・街だったのか?」

瓦礫や木材の山が点在しているのだ。そのどれもが火を受けたのか黒く焼け焦げていた。

「どうやらそのようだな。気を付けろ、物陰が多くて隠れやす・・・・・・」

マイクが言い終わらぬ内に後ろへ振り向く。デイヴもそれに釣られ広報を確認した。

そこには綺麗に並んでいた筈の隊列に人一人分の空間が出来上がっていたのである。

その空間の足元を確認すると、そこには灰の山が出来ていた。

デイヴの脳裏には宇宙人が使っていた銃が思い起こされた。人体に当たれば一瞬にしてその人間は灰となってしまう代物であった。

「敵襲!敵襲だ!」

デイヴが状況を察したのと、隊の誰かがそう叫んだのはほぼ同時であった。

静寂と緊張に満ちていた空間は、一瞬にして怒号と銃声が入り混じる戦場へと変わった。

デイヴはマイクと共に、瓦礫の山へ向けて闇雲に銃を撃ちつつ後退していった。

「クソ!敵に囲まれてるぞ!」

「来た道を戻ろう。それしか道はない!」

近くにいた兵士が目の前で灰になった。デイヴの中に潜んでいた恐怖が鎌首をもたげ始める。

失うものが何もない相手は自分たちを殺す気でいる。敵が人間であるが故に、生々しいその感情が恐ろしかった。

「引け!引けえ!」

大佐も分が悪いと見たのか撤退を指示した。

それを機と見たのか、敵は瓦礫の山から姿を現し、下がる兵士たちに追い討ちを掛け始める。

「舐めるなよ!この・・・・・・」

敵にけん制を掛けつつ後退していたデイヴの前にいた兵士が灰と化した。

開けた視界の先にはおそらく銃を撃ったであろう男が構えていた。

デイヴは手にしていた銃を男に向ける。しかし、引き金に掛けた指はすぐには動かなかった。

「デイヴ!」

マイクがデイヴを突き飛ばすように体当たりをした。

次の瞬間、デイヴの視界からマイクは消えていた。

「そんな・・・・・・駄目だ!マイク!マイク!」

膝を着き、マイクだった灰を手に取る。それは、容易く風に吹かれて消え去ってしまった。

「立て!デイヴ!下がるぞ!」

大佐がデイヴの腕を取り無理やり立たせた。

マイクを撃った男が血を流し倒れているのがデイヴの視界に入る。おそらく大佐が殺したのだろう。

「クソ!クソ!」

デイヴはあらん限りの弾を撃ち続け、再び後退を始める。

その間にも兵士が何人も犠牲になっていくのが目に留まった。

デイヴらが撤退完了した頃には、兵士の3分の1は消滅していた。


その夜、ベースキャンプでデイヴはベットに腰掛け、その日の事を振り返っていた。

自分が敵を殺すのに躊躇してしまった事、そのせいでマイクが死んでしまった事である。

思い返す度に深い後悔の念と怒りが湧き上がってきた。

「あの時に引き金を引いていれば・・・・・・」

血が滲むほどに唇を噛み締めデイヴは決意する。

「次は迷わない・・・・・・今度は迅速に殺してみせる・・・・・・!」

そこへ同じ宿舎の兵士が現れた。どうやらデイヴを探していたらしい。

「よおデイヴここにいたか。明日の作戦を立てるらしいぞ。外へ集合だ」

「分かった。すぐに行く」


外へ出ると、大佐が前に立ち準備をしていた。

全員が揃ったのを確認すると、声を大にし話始めた。

「お前たち!今日はご苦労だった!しかし、今日は大敗であった。理由は言わなくても分かるだろうが宇宙人の装備だ」

大佐がプロジェクターで投影された画面を示す。

そこには宇宙戦争により得た情報が記されていた。

「知っての通り、奴らの持っていた銃は宇宙人のものだ。当たれば必ず死んでしまう。加えて、多少の射線のズレは補完される。本来なら当たらない弾道でも数センチほどならカーブし


てくるため当たりやすくなっている」

プロジェクターの画面が切り替わる。次いで表示されたのは人型のスーツだ。

「こちらも宇宙人討伐に参加していた者なら知っているだろう。普通の銃弾なんぞは通さない。ただ、暴徒たちは全員分のヘルメットは回収できていないらしい。今日も数人は被ってい


なかったしな」

デイヴはマイクを殺した男を思い返す。

確かに、あの男はヘルメットをしていなかった。そのため大佐により頭を撃ち抜かれて死んだのだ。

「そうは言っても俺たちの不利な状況には変わりない。そこでだ、上に掛け合い対宇宙人用の装備を使用する許可をもらった」

兵士たちの間にどよめきと歓声が挙がった。

「復興を邪魔する暴徒は生け捕り、抵抗するなら殺してしまって構わない。明日は世界各地で暴徒に攻撃を仕掛けてこの問題を終わらせる予定となっている!分かったなお前たち、暴徒


を完全に潰すぞ!」

「イエス!サー!」

兵士たちの士気は高まっていた。無論、デイヴもであった。

「明日・・・・・・お前の仇を討つぞマイク」

マイクを殺した男は死んだが暴徒は未だ鎮圧出来ていない。

復讐の思いを胸にデイヴは夜が明けるのを心待ちにするのであった。


翌日。デイヴらは昨日襲撃を受けた瓦礫の山まで到達していた。

しかし昨日とは異なり、手には小型ながらも宇宙人のスーツを貫くことの出来るレーザー銃。身には宇宙人の銃を防ぐことの出来るスーツにヘルメットを着用していた。

「昨日のアイツらの動きを見るにこの場所には慣れているだろうからな。仕掛けてくるぞ」

デイヴの近くにいた兵士が誰にともなく呟いた。確かに、武器の利こそデイヴらの方が優勢になったものの、地の利は未だ暴徒たちの方にあるのだ。

「ぐがああああ!」

デイヴの後方の兵士が一人吹き飛ばされた。消滅こそしていないがモロに銃撃を喰らったらしい。

「来たぞ!撃てえええ!」

瞬く間に瓦礫の荒地はレーザーが飛び交う戦場となった。

デイヴは、かつての宇宙戦争と今回の戦いが重なって見えた。

なぜなら、自分たちは対宇宙人用の道具を使用しているし、敵は宇宙人の道具を使用していたからだった。

それが幸いしたのか、デイヴは一切の迷いなく引き金を引くことが出来た。

戦闘は数時間続き、その雌雄は先の宇宙戦争と同じく数が物を言った。デイヴたち兵士が勝利したのである。

しかし、被害は甚大であった。半分以上の兵士が死に、さらに生き残った兵士の3分の2以上が負傷していた。

大佐もまたかなりの傷を負っており、敵の数が多ければ勝敗は変わっていた可能性すら考えられた。

比較的軽症であったデイヴは、戦場に残された装備の回収を行っていた。

レーザー銃といえど限界はあり、デイヴが拾う銃の殆どは銃身が焼け付き使い物にならなかった。

回収作業の最中、デイヴは暴徒側のヘルメットを付けていない女性を見つけた。

血の気のない顔、見開かれた瞳に、彼女が死んでいる事は明らかであった。

それを悟ったデイヴは涙を流した。自分たちが争っていたのが人間であったことを今更ながらに再認識したのである。

「許してくれ・・・・・・とは言えない・・・・・・せめて安らかに眠ってくれ」

デイヴは彼女の瞳を閉じさせた。それと同時に、望郷の思いが湧き上がってきた。

「帰ろう・・・もうこんなことは御免だ・・・・・・」

そう呟いた時であった。聞き覚えのある不快な音が耳を劈かんばかりに轟いた。

それは宇宙人の円盤が飛来した時に聞いた音であった。

「そんな・・・冗談だろう?」

デイヴの近くで作業をしていた兵士が絶望に満ちた声色で口にしたのをデイヴは耳にした。

円盤は三つ飛来していた。二つはこれまでも見たことがあったが、残りの一つ、都市一つを覆えるのではないかと思うほどの巨大な円盤は誰も見たことがなかった。

先に二つの円盤が着陸してきた。

「クソ!戦える者は武器を取れえ!」

大佐の命令に各自武器を取る。しかし、その殆どが壊れたものであった。

円盤から宇宙人が降りてくる。壊れていなかった銃で応戦する兵士もいたが、既に何度も使用された銃は宇宙人の着用しているスーツを破ることが出来なかった。

「愉快、愉快。ここまで上手くいくとはな」

宇宙人の一人が笑う。

「地球人に我らの銃を渡せば勝手に潰しあうと思って機を計っていたが・・・・・・まさかここまでとはな」

「そ、そんな馬鹿な・・・・・・!まだ本隊がいるなんて・・・・・・」

巨大な円盤も着陸すると、そこから大量の宇宙人が降りてきた。どの個体もスーツを着用し、銃を手にしていた。

デイヴたちの前に整列するとその中の一体、他の個体よりも長身である宇宙人が一歩前に進み出てこう告げた。

「地球を貰いに来た」と。

読了ありがとうございます。


本当は人間vs人間の空しさだけを書くつもりでしたが、オチのために宇宙人には出てもらいました。

おそらくどの作品よりも地球の言語を流暢に話してると思います。

超久々に小説を書いてみましたが文章とかこんな感じな書き方で果たして読者様に伝わっているのか不安ではあります。

やっぱり短編の方が気楽に書けるなと思いつつ書いた作品でした。

よろしかったら感想もお願いします。

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