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新編 L.E.G.I.O.N. Lord of Enlightenment and Ghastly Integration with Overwhelming Nightmare Episode8  作者: 不死鳥ふっちょ
第二部  Les taureaux d'or et les dragons d'argent se battent tout le temps.
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第十九章第二節<Arrow of Riot>

 停泊する船の巨影が砂嵐の中におぼろげに見えてくる頃、ラーシェンの帰還を望遠カメラで発見したメイフィルは操縦室から外へと飛び出していた。


 小高い岩山のような足場を上り終えたラーシェンは、船の外で光が明滅するのを素早く発見した。


 目を凝らしてみると、誰かが手に持ったライトのようなものを振っているようであった。岩山を足早に駆け下り、さらに近づくうちに、それがメイフィルであることが見えるようになる。


 外套を翻しながら疾走するラーシェンには、息切れ一つ見られない。妖魔との戦闘と、決して短くは無い距離を走ってきたにもかかわらず、足取りや呼吸には疲れを感じさせるものは何一つなかった。


「どうした」


 問いかけるラーシェンに、メイフィルは黙って手に持っていたものを突き出した。


 それは、男物の上着であった。広げられたそれの背中には小さな裂け目があり、風を孕んでばたばたと膨れ鳴る。


 その上着には、見覚えがあった。顔をしかめ、ラーシェンは上着からメイフィルへと視線を移す。


「……ヴェイリーズが、どうした」


「わかんない……出てったきり、行方不明なの……!」


 ぐっとメイフィルの顔が歪む。


 それまで、フィオラや操縦士たちに囲まれて、気を抜く間もなかったのだろう。いや、それともラーシェンを前にして、緊張の糸が切れたのだろうか。


 メイフィルはラーシェンに腕を回し、顔を押し付けて嗚咽を漏らした。眼鏡をかけたまま、ぐっと腕に力を込めるメイフィルを見下ろすラーシェンの瞳が曇る。




 もし、生きていたら、このくらいの年齢、だろうか。




 僅かに迷い、動きを止めたラーシェンの大きな手が、メイフィルの頭に置かれた。


 堰を切ったように泣き声を上げるメイフィル。


 こんなにも感情に素直なメイフィルを見たのは、旅への同行を願い出た、あの時以来だった。


 普段はぐっと感情を押し殺して、メイフィルもまた生きているのか。自分ほどに世を渡り歩いていてさえ、時折過去は辛く胸を抉るというのに。


 そう感じ、メイフィルを抱く腕に力を込めたラーシェンは、ふと視線を感じて顔を上げた。


「お帰りなさい」


 視線の先には、フィオラがいた。腕を組んだフィオラは、ラーシェンを何処か悲しげな表情でひたと見据えている。


「詳しく、話を」


「入って……暖かいものを用意します」


 ラーシェンを労うように微笑みを浮かべ、フィオラは船へと続く階段に向かった。




「光、だと?」


 フィオラの話に、ラーシェンは眉をひそめた。


 恐らくは、自分が見た光と方角は同じ。だが、時間帯が違うということがラーシェンの決断を鈍らせていた。


「それを、ヴェイリーズは調査に行ったのです。哨戒機に乗って、それ以来……」


 周辺の地形を立体地図として映し出したディスプレイを見下ろしながら、ラーシェンはあたりの様子を把握する。


 ちょうど、自分がいた辺境都市とは正反対の方角だ。


「哨戒機の反応はないの、その代わり、光のあった方角……このあたりに、強いエネルギー反応があって」


 メイフィルが指差したのは、ちょうど擂鉢状の地形のあたりであった。


「それから、動きは?」


「今のところは無いわ」


 卓上には、縦横に矩形の方眼を敷いた立体地図が映し出されていた。そこから発せられる光を浴びながら、ラーシェンは無表情な瞳で見下ろしている。


 深い思索に没入しているラーシェンは、呼吸さえ最低限に抑え、目を細めて探っていた。


 ヴェイリーズの機体反応が消失したこの地点には、何かが隠されていることは間違いない。フィオラの見た光、ヴェイリーズの疾走、そして自分の見た光。


 だが、不用意に近づけばヴェイリーズの二の舞になる可能性が高い。


 遠隔から様子を探るという方法もあるにはある。


 が、それには相当する機材が必要になるし、またフィオラの異能をもってするとしても、Facultriceファキュルトリスの力による「接続」が必要となる。


 完全な安全圏から遠隔調査をすることは、まず不可能であった。


「ラーシェン、どうするの?」


 不安げな光を宿した瞳を眼鏡の奥に隠し、メイフィルが尋ねる。


 本来ならば、相手の出方を待つという方法が最も選択される確率が高いものであったが、それでも消息を立ってから半日以上が経過しようとしている今、これ以上の反応を待つことは無意味であろう。


 いや、無意味である以上に、相手を見失ってしまうという最悪のケースすら考えられる。


 助けるか否かと問われれば、答えは決まっているように思えた。


 だが、それに至るまでの手段の悉くが封じられてしまっている。待ち受けているものへの予備知識が全く無い状態で、敵陣中枢に突撃を仕掛けられるほど、ラーシェンの精神は自己陶酔に浸ってはいなかった。




 どうする。


 あのChevalierシュバリエールの青年と、己の命と、天秤にかけるとすれば。




 そのとき、操縦室に電子音が響いた。


「どうしたの?」


 振り返るフィオラに、操縦士の一人がヘッドホンを耳に当てながら報告する。


「発信者不定の通信を受信しました、リアルタイム配信です」


「出してください」


 フィオラの言葉から十秒と待たずに、大画面に映像が映し出される。最初はノイズが画面を暴れまわるだけであったが、すぐにチューニングされ、鮮明な映像となる。


 画像に映っているのは、一人の男であった。


 フィオラ、メイフィル、そして操縦士らはその男を緊張した面持ちで見上げているだけであったが。


 ただ一人、ラーシェンだけは驚きと狼狽のない交ぜになった表情で男を凝視していた。ラーシェンの姿を見つけたのか、画面の中の男はにやりと笑うと、知り合いと挨拶を交わすように右手を上げる。





「よぉ、またあったなぁ色男……酒場以来か、オイ?」

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