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新編 L.E.G.I.O.N. Lord of Enlightenment and Ghastly Integration with Overwhelming Nightmare Episode8  作者: 不死鳥ふっちょ
第二部  Les taureaux d'or et les dragons d'argent se battent tout le temps.
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間章ⅩⅧ<ひび割れた琥珀>

 内線のベルが鳴ったのは、真夜中を幾分か過ぎた時間であった。


 執務室にいた第二騎士団<琥珀アンバー>元帥テレンス・アダムズは、無表情のままに受信のボタンを押した。


 机の隅に内蔵されたスピーカーから、指向性の強い音声となってテレンスの耳へ部下の声が届けられた。


「お忙しいところ大変失礼致します、元帥閣下」


 答えは無い。


 通信その他において、また特に自分の部下に対して、テレンスはこの奇怪な約束事を貫き通していた。


 問いを発するとき、または自分から何かを言わねばならないときを除き、この男が自ら声を発することはないのだ。面と向かっているときでさえ、彼は奇妙な決め事を破ることはない。相槌のない会話というものほど、話し手がやりづらいものはない。


 その効果を知ってか知らずか、テレンスはそうした瑣末なことですら自らの優位性を示そうという魂胆なのか。


 どちらにせよ、テレンスへの通信において、彼の声を聞いた者は稀であった。


「ただいま、通信部より<Dragonドラゴン d'argentダルジャン>よりの書簡の報告がございました。各騎士団頭領位階への連絡ということなのですが」


「送りなさい」


 テレンスはそれだけを口にして、コンピュータの電源を入れる。


 ハードディスクを読み取る音とともに起動したコンピュータは、ほどなく一つのアーカイヴを受信する。騎士団を束ねる最高責任者のみが知るパス・コードを入力し、最上位封印のかけられた書類を開いた。




 テレンスの表情が変わった。




 傍らに置いたコーヒーカップから立ち上る湯気と香りにも一瞥もくれず、ただじっと指を組んだまま画面を見つめている。


 その沈黙が果たして、数秒であったのか、それとも一分にも達するものであったのか。答えは無いと分かっていながら、スピーカーから部下の不安げな声が聞こえてきた。


「テレンス元帥閣下……?」


「転送されてきたのは、これだけか?」


「……は、はい、その書簡のみでありました」


「お前たちは、この内容を見たのか?」


「いぇ、最上位封印のパス・コードは通信部といえど知らされておりませんので……」


 ふん、と鼻を鳴らしながら、テレンスは画面に見入る。しばしの間、テレンスはこつこつと机を指先で叩いていたが、やがてその所作を止めると、テレンスはやおら通信のスイッチを切った。


 ノイズがスピーカーから途絶え、執務室の中はまた静寂に戻る。




 椅子の背もたれに身を預けながら、テレンスは思索を巡らせる。


 現在、自分を除く五つの騎士団頭領は、全てこの本国の七尖塔には不在であった。


 第一騎士団<真珠パール>は開発局の視察遠征、第三騎士団<珊瑚コーラル>と第六騎士団<翡翠硬玉ジェイド>は実践演習に、そして第四騎士団<藍玉アクアマリン>は王家のパーティーへと賓客として出席、第五騎士団<星彩青玉スター・サファイア>は数日前から行方をくらましている。


 もっとも警戒すべきは第五騎士団であったが、今はそれを絡め取る手立てがあるわけでもない。


 恐らく、<Dragon d'argent>から最上位封印の掛けられた書簡が届いたという報告は全ての騎士団に伝えられているだろうが、まさか通信部は書簡そのものを転送するような愚挙は犯すまい。


 いくらデータベース上では複製は無限に可能であるとしても、最上位封印を転送すれば、その間で幾らでも傍受は可能だ。ましてや、現在は一触即発の情勢、L.E.G.I.O.N.に奪われでもしようものなら戦争程度では済まなくなる。


 ということはすなわち、今の段階において軍部でこれを知る人間は自分ひとりだというわけだ。


 <Taureauトロウ d'orドール>の上層部、すなわち王家の側にはこの報は筒抜けになっているだろうが、<藍玉>一人くらいならどうということはない。


 頭の中で様々な権謀術数を展開しつつ、テレンスは画面の文字をじっと見つめ、そしておもむろに通信部への回線を開く。


「至急の連絡だ、確か<Iesodイェソド>にセシリアとカルヴィスの部隊がいたな?」

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