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新編 L.E.G.I.O.N. Lord of Enlightenment and Ghastly Integration with Overwhelming Nightmare Episode8  作者: 不死鳥ふっちょ
第一部  Un homme en vêtements noirs a rencontré une fille.
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間章Ⅰ<回収班>

 何度やっても、宇宙空間への出動というのは慣れるものではなかった。腰部に取り付けられた命綱があるからいいのかとも思えるが、実際に飛び出してみればわかる。重量感の一切失われたその世界では、命綱の存在自体が、ひどく頼りなく感じられるのだ。新米のときには、何度任務中に不安になって自分の腰をまさぐったことか。ふわふわと浮いているような命綱の先が、本当にポッドに結ばれているのかということまで不安になってくるのだから、仕方がない。


 無論、今ではそんな情けないことはしない。だが圧縮空気を噴射して宇宙空間を移動する際、足下に広がる広大な深淵を覗き込んだだけで、息が詰まる思いがする。


 これだけは、何度やっても慣れない。


「目標確認しました、機能停止を確認」


「よぉし」


 男はヘルメットの内側に取り付けられたスピーカから聞こえてくる部下の声に応ずると、空気の噴射率を上げ、一直線に目の前の残骸へと飛んでいく。大きく口を開けたそれは、まるで巨獣の屍骸のようでもあった。ぽっかりと開いたその顎で捕らえるべき獲物に逆にしてやられたような、そんな印象を受ける。


 天を衝くような、という表現がまさしくぴったりな戦艦の残骸。宇宙という場所では、自分たちの存在の卑小さというものは、いやがおうにも思い知らされる。それは、自分たちが前にしている世界というものが、本当は途轍もなく広大で、巨大で、果てしないものであることを体感するからだ。


 かつて、海という未知の世界に足を踏み出した遥か太古の人間たちも、同じような感覚を感じていたのだろうか。今や人間たちの技術は進み、一つの惑星の中における支配権を遥かに拡大した影響力を持つようになった。


 しかし、それを上回るほどの規模で出現した、宇宙空間という世界。それは高性能の調査船舶や長距離航行技術をもってしても果てが見えないという化け物のような大きさだ。なまじ実感がないから分かりづらい、という考えもあるかもしれない。


 しかし、大昔に絶滅したといわれる鯨という海に住む哺乳類を十数倍してもまだ足りない、こうした戦艦の残骸を前にすると、ようやく自分にも宇宙という世界の広さがわかってくる。これだけの設備と装備と技術をもってしても、なお征服し切れない空間、それが宇宙なのだと。




 近づいていくにつれ、先に出発した部下たちが既に調査を開始、忙しそうに動き回る姿が見えてくる。


「なんか見つかったかぁ」


「駄目です、やはり報告どおり、生存者はいません」


「あったりめえだろうが、馬鹿」


 スーツもなし、救命ポッドもなしに、宇宙空間で人は生きられない。


 至極真面目な口調で報告してくる新米の部下に苦笑交じりに応対しつつ、男は先へと進む。


「デクスター伍長!」


 そのとき、奥で調査を続ける部下の一人が、やや興奮した口調で回線を通じ、呼びかけてくる。


「どぉしたあ!」


 デクスターと呼ばれた男は、反射的にヘルメットの右耳の部分に手をやって答える。本来、ヘルメットは多少の遊びを除いてはずれることなど有り得ない。しかし、一言も聞き漏らすまいという緊張が、反射的にそうした行動を生んでしまうのであろう。こればかりは、理屈では説明しきれない。


「無傷の銃座を発見しました、恐らく誘爆を免れたものと」


「よぉしよくやった、今そっちに行くからな」


 通信を切ると、伍長は壁を軽く蹴り、空中を泳ぐようにして銃座へと向かう。半ば残骸に覆われ、隠れるようにして埋もれていた銃座は、数人の部下の手によって掘り出されていた。


 見ればまだ充分すぎるほどの弾薬が装填されたままの状態である。それを一目見た瞬間、伍長の眉がぐっと寄せられた。


「見つかったのは、こいつだけか」


「はい、今のところはこの一機だけです」


 鼻を鳴らし、伍長はかがんで銃座に顔を近づける。台座から外れた部分には僅かに損傷が見られたが、それ以外は綺麗なものであった。狙撃手は無事ではすまなかったのだろうが、銃座は奇跡的に残っている。


「おい……こいつぁ……」


「伍長?」


「見ろ、射出の痕跡がねえ」


 覗き込むと、伍長の指摘通り、銃座の筒の中には煤一つ、傷一つ見られない。薬莢が排出される部分にも、汚れは見当たらなかった。釈然としないまま伍長は立ち上がり、誰にともなく呟く。


「反撃、しなかったっていうのか……?」


 呟きながらも、それが有り得ないことであると、伍長は考えていた。そもそも、この騎士団を指揮していたのはマクシム・ゲルネ大尉である。冷静沈着な判断と、そして時期を逃さぬ即断で知られるマクシムが、攻撃のタイミングを逸したわけがない。


 考えられる条件は二つ。


 一つはマクシムの能力を遥かに越えた詐術的能力を相手が持っており、半ば騙し討ちに近い状況で攻撃を受けた。


 もう一つは、マクシムが反撃をするよりも迅速に、反撃不可能なまでの壊滅的な攻撃を叩き込んだ。


 どちらにしても、それが並大抵な腕では成し遂げることすら不可能である仮説ではあったが。


「どうしましょう、報告すべきでしょうか」


「そりゃまあ、すべきではあるだろうが……それにしても、気になるネタだな?」


 にやりとヘルメットの中でほくそえんで見せ、伍長はすっくと立ち上がった。




「よぉしお前たち、残り三十分で調査を終わらせるぞ! 騎士団に喧嘩売ってきた馬鹿な奴等がそこらへんに潜んでやがるかもしれねえからな!」

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