間章ⅩⅡ<終局>
ラオデキア尖塔の会議室にて待機していた<珊瑚>、<星彩青玉>に加え、任務から帰還した<琥珀>元帥ら。
戦闘開始から14時間後の深夜になろうという時刻になってようやく、戦況結果の報告がもたらされた。機密文書として転送されてきたそれに施された、七重の騎士団頭領のみが知るパスコードを入力して開封したそれ。各自の端末に映し出された文面は、このようなものであった。
当該宙域標準時22時37分をもって、戦闘行為は終結せり。
第六騎士団は、<Dragon d'argent>軍に辛勝。
カイツェル中将およびヴィーゼル中将は生存を確認。
あわせて提示されていたデータの上では、被害率は21%。局地戦としては、かなりの損害であったことを示している。
「たかが龍の軍勢如きに、これほどの被害とはね……」
嘲笑うような呟きが、<琥珀>元帥から漏れる。
「失礼、今なんと?」
<星彩青玉>大将は、しかしその声を聞き逃さなかった。やけに緩慢な動作で顔を上げると、<琥珀>は唇の端を吊り上げる。
「無能な部下を持つ、<翡翠>の騎士団頭領に同情するというのだよ」
躰を背もたれに預け、そして机の上で指を組んでみせる。
「大規模な戦略的行為ならまだしも、挑発されておいてこれほどの損害を出すというのは、情けないとは言えないのかね?」
「お言葉を返すようだが」
<星彩青玉>の声色は、怒りと動揺にぎこちないものとなっていた。
「今回の件が、ただの挑発外交ではなかったということをご存知か?」
「ああ、充分に知っているよ」
冷笑をそのままへばりつかせた顔で、<琥珀>が答える。
「第七艦隊を騙る相手から艦船を破壊されたというのだろう……どこをどう考えれば、ただの挑発外交ではないと?」
「貴殿はその場にいないからそのようなことが口に出来るのだ」
重く低い声で、<珊瑚>大将が口を挟む。彼もまた、あの混乱と動揺の空気を共にした同志である。<琥珀>元帥の言葉が如何に理想論であり、また机上の空論であるのかは、痛いほどに分かる。
「今回の一件に関して、貴殿はいわば『部外者』だ。いらん言葉を挟むのは遠慮してもらいたい」
「は!」
肺の中の空気を吐き出すような、奇妙な笑いを放つ<琥珀>。
「なるほど、それでは同病相哀れむ敗残者たちは、そっとしておいてやるとしようか」
席を立つ<琥珀>。既に二人はその方角を見ようともしない。彼の言い分が極めて第三者的立場からのものであり、今回の異常な宣戦布告を解さぬ意見であることは疑うべくもないからだ。
ゆっくりと会議室の扉に近づく<琥珀>は、ふと足を止める。
「そうそう……恐らく貴殿らの高尚な戦略には我輩など及びもつかないのだろうとは思うがね……」
どう好意的に理解しようとしても、皮肉であることには変わりのない口調。
「我が第二騎士団が、<Taureau d'or>の騎士団中、最も保有する艦船が多いということを、お忘れなきよう……」