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新編 L.E.G.I.O.N. Lord of Enlightenment and Ghastly Integration with Overwhelming Nightmare Episode8  作者: 不死鳥ふっちょ
第二部  Les taureaux d'or et les dragons d'argent se battent tout le temps.
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第十二章第一節<Outbreak>

 モニターがテス回廊の終焉を告げる光を発してから、どれほどの時間が経っただろうか。


 否、実際はほんの数秒であろう。だがカイツェルは握り締めた掌にべたつく汗を感じ、軍服のズボンで拭う。既に部下をはじめ、ヴィーゼル中将と共に全艦に向けて作戦は発令していた。


 後は、実体化直後の<Dragonドラゴン d'argentダルジャン>の陣営が問題だ。こちらの実体化点はほぼ一箇所。艦隊それぞれの規模と質量を考えて微妙なずれを敢えて設けてはあるが、それにしても数十キロ前後の誤差でしかない。


 哨戒機が実体化していることから、相手はそのポイントの特定をしてくることだろう。どれだけの攻撃がその一点に集中するか。そして、初回の防禦率がどれだけであるか、この作戦はそこが……。


 そこまで考えて、カイツェルは自嘲気味なため息をついた。これが、作戦と果たして呼べる代物なのかどうか。まるで、運を天に任せた博打だ。


「……瞑想観測師への回線開け」


 カイツェルの命令どおり、通信回線の向こうから初老の男性の声が聞こえてくる。


「<Chesedケセド>サイドの、<Dragon d'argent>布陣は見えるか」


「特別な布陣ではございません……実体化点正面に凡そ150、一塊になりまして……」


「手間をかけたな」


 ぱちんと回線を切ると同時に、操縦士から報告が入る。


「中将、回廊転送、残り10秒です!」


「よぉし」


 掌に拳を打ちつけ、カイツェルは椅子の背もたれに躰を預ける。


「いいなお前たち、実体化が終了したら、できるだけ迅速に移動を開始しろ! 何があっても手間取ってやがるんじゃ……」




 モニターの視界が出し抜けに復活する。


 全面に広がる虚空の闇。そして対峙する、無数の光点。それらは恐るべき速度で肥大していく。


「全艦戦闘速度ッッ!!」


 号令と共に、<トリグラフ>を衝撃が襲う。


 <Dragon d'argent>からの光学兵器の総攻撃を喰らったのだ。通常では考えられないだけの密度を持ったエネルギーが着弾し、拡散し、そしてそのまま消えることなく空間に停滞する。それはさらに打ち込まれるエネルギーと交じり合い、渦を巻き、あたかも破壊の竜巻となして艦隊のフィールドに喰らいついてくる。


 見る間に食い尽くされ消耗していくフィールドが、まるで悪夢の到来のように操縦士らの心を蝕む。


 だがカイツェルは焦らない。数発程度なら、エネルギーフィールドが無効化してくれるし、何よりこの攻撃は充分に予想していたからだ。まるで壁の一点から無数の昆虫が這い出てくるように、ぞわりと<Taureauトロウ d'orドール>の艦隊が拡散する。


 しかし集中砲火はいまだに収まらない。逸早く中心から離脱したカイツェルは、しかしその攻撃に疑問を感じていた。これは、牙を研いで待ち構えていた相手の攻撃ではない。どちらかといえば、追い詰められ、必死の抵抗の中で繰り出す渾身の反撃だ。


 どうしてだ。こちらからの交渉を撥ね退けておきながら、何をそれだけ焦っているというのだ。


 <Dragon d'argent>の意図が見えぬ。こちらとの戦争を望んでいるのか、それとも交渉を忌避しているのか。だがしかし、それに対する答えが与えられることはない。この戦闘で命を落としたならば、奴等の真意を得る事はできぬ。


 エネルギーの塊と、実体化の光が交錯する空間に視線を向けたカイツェルは、無意識に唇を噛む。圧倒的なエネルギーのぶつかり合いの中に飛び込んでくる後続の艦船らのエネルギーフィールドの強度と、どちらが上か。


 そうカイツェルが懸念した時であった。渦を巻く光の中で、明らかに爆発と思われる衝撃が生まれた。


「<ククルカン>撃沈!! 誘爆によって<フンアフプ>、<ユア・カンシュ>共に大破!!」


「ちっ」


 砲撃が、主砲のエネルギープールに直撃したのであった。予測していた純粋な破壊力に加えて艦内に発生した爆発によって、フィールドと外壁が耐え切れなかったのであろう。小太陽のような光の中から、真っ二つになった<ユア・カンシュ>の艦頭が死者の首の如くに露出している。


「全軍左右に展開!! ヴィーゼル中将に近い奴等は向こうに指揮を仰げ!!」


 叫びつつも<トリグラフ>は急加速で実体化点を離脱。


 その動きに、周囲で撃破された友軍の艦船を見つめていた艦船が我に返り、追従してくる。対する<Dragon d'argent>の艦隊も、ただ遠隔地から砲撃だけでかたをつけようとは思っていないらしい。突出する形で迫り来る蛇のような艦隊が、こちらの動きにあわせてずるりと左右に船首を向ける。


 戦力は二分された。両者の距離が近くなった分、さらに攻撃は熾烈を極める。


 一瞬の沈黙をおいて、至近距離で爆発が起きた。


「後ろに食いつかれました……<イアペトス><アイオーン>大破!!」


「焦るなッ」


 カイツェルは手元のコンソールに指を走らせ、作戦内容の予測軌道をモニターに映し出す。中央に<Dragon d'argent>を配置し、その外周を半周、双方向からぐるりと回りこむことによって、ヴィーゼル中将隊との合流をはかり、殲滅する。


 その間、回転半径を限定された目標地点周囲では満足な戦闘速度での移動ができないことは予測済みだ。追いすがってくる奴等は、移動の過程で出来る限り数を減らす。


「ヴィーゼル中将との相対距離と合流予測時間、出せ!」

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