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新編 L.E.G.I.O.N. Lord of Enlightenment and Ghastly Integration with Overwhelming Nightmare Episode8  作者: 不死鳥ふっちょ
最終部 Un soldat dans la cour de la boîte dort rêvant du monde extérieur.
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第四十六章第二節<Seven Manuscripts>

 それは、悠久の時の牢獄の彼方にある、神代の時代。


 先代の聖印の守護者が暮らしていた、しかし戦乱と混迷を極めた時代。


 人は科学という名すら知らず、魔術師がその地位に就いていた時代。


 それは、とある北方の魔術学院の研究室に、端を発していた。







 ヴェリオーラ魔術学院講師、ラウローシャスは異界の扉を開く魔術の開発に成功した。


 当初、扉の向こう側の世界は、既に知られてしまっているものであるとラウローシャスは考えていた。つまり、瞑想師の観想や水鏡、水晶などによる幻視によって確認済みの世界であり、自分はそこへ至る別の扉を発見したに過ぎないと。


 だが、幾度かの接触の末、扉の向こう側にあるのが、全く未知の空間であることがわかってきた。


 世界は、こちらの世界と非常に酷似していた。街があり、人が暮らし、そして確かに剱と魔法に彩られた文化がそこにはあった。中でもラウローシャスの注目を集めたのは、とある街の中央に存在する巨大な五つの尖塔を持った建造物であった。


 そのことを知ったラウローシャスであったが、しかしその発見の公表には、慎重を期した。


 それでも極秘裏に二人の賢者であるギラル・カールナとシェゼ・バルザーナには事実を話し、そして彼等の文化を吸収してくることにおいて、同意を得る。


 学府に足を運び、そして学院図書館の数倍にも匹敵する大図書館で学ぶうち、ラウローシャスはこの世界の魔力総量が自分の世界とは桁違いに多いことを知る。


 自分の学んできた魔術学における理論限界値、すなわち同じ魔術であっても使用者によってその反応は増減する上限値が、異界においては無限大に等しいのである。


 ということは、魔術の研究が行き着く先は一つしかなかった。


 大きすぎる力は感覚のインフレーションを引き起こし、やがては巨大な魔力を生み出すことが目的となっていく。






 そのことを感じ、また禁断の魔術の存在を知ったラウローシャスは、異界とのこれ以上の接触を諦めることにした。


 理由は、もし両者の間に文化的交流が生まれれば、自分の元いた世界の魔術理論は間違いなく崩壊する。それまで数世代にわたり、世界の許容量の中で行われてきた様々な研究が、異界との接触により、水泡と帰す可能性が非常に高い。また、絶対的な力量差がある二つの文化が接触したとき、両者の間に何が生まれるかは、如何にラウローシャスと言えど看破は容易であった。


 


 すなわち、強者による、弱者の支配。


 


 それを恐れたラウローシャスは、即座にその魔術を破棄することを決定した。


 しかし、巨大な呪句篇と典礼魔術からなるそれを破棄することは、困難を極めた。


 何故ならば、強すぎる力はそれ自体が意思を持つ。単独であれば簡易な機構を持つ魔術を幾つも組み合わせ、時には相反する属性のそれらをぶつけ合わせることによって完成させた魔術。


 それは喩えていうならば、武器を携えた群集であった。強力な意志の元で統制され、完成された魔術は、それを解体することは事実上不可能であった。


 ラウローシャスは苦悩の末、魔術の破棄を断念。代わりにそれを記した魔術書を消滅させることにした。同様に意志を持つ魔術具となったその書物であったが、ラウローシャスは書物の分断に成功した。


 何故ならば、七つの章からなる魔術書<妖園世界>のうち、第四章である<隻眼の龍>だけが分断に同意したせいであった。


 トリックスターとなった<隻眼の龍>は、ラウローシャスの意志を受け入れ、魔術書は七つの写本となった。さらにラウローシャスは、七つの写本を、それぞれが融合できぬよう、七つの世界にそれぞれを封じ込めた。


 


 写本は、それぞれの世界において、単なる強大な魔術の一つとなり、その力は永劫にわたり失われるはずであった。




 だが、写本はただ分割を甘受したのではなかった。


 意志ある魔術具となった写本は、それぞれの世界において災厄を撒き散らす禍となった。


 世界の中で力を欲する者を誘惑し、やがては破滅を招くほどの力を与え、狂乱を生み出す。


 写本の目的は、自分を統合させるだけの力ある者の召喚であった。力を欲する者であれば、同時にさらなる力への渇望をも併せ持っている。写本はそうした人材を発見し、一時的に身をゆだねることで、世界の間に立ちはだかる壁を通過し、同胞を求める活動を開始したのだ。


 その動きは、ラウローシャスが肉体の限界を感じ取り、この世界で死を迎えると同時にかつて<妖園世界>で見つけ出した世界、神都セプラツィカードへと旅立った直後のことであった。


 だが、ラウローシャスもまた、写本に対し次元幽閉だけで満足していたわけではなかった。


 ラウローシャスの生きる世界には、聖印の守護者という者がいた。それらは神器と呼ばれる三つの武具を守護する任を負う者たちであり、有事の際には凄まじい魔力を操ることができる者たちがいた。


 神剱ダラヴェーナを守護する<剱>の守護者。


 魔杖ディニャーラを守護する<杖>の守護者。


 銀珠カザーツィアを守護する<珠>の守護者。


 だがその決断が仇となった。


 写本がまず手始めに誘惑したのは、<珠>の守護者だったのだ。


 


 写本は現在、四つまでがL.E.G.I.O.N.の手に集められていた。


 第一章<紫の園>、第三章<偽りの光>、第六章<逆しまの湖>、第七章<息衝く城>。


 融合を拒絶する<隻眼の龍>を除き、残る写本は二つであった。

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