間章ⅩⅩⅩⅩⅣ<夢幻の書斎>
「……これが、用意された結末、なのでしょうか」
深く憂いを帯びた少女の声が、長衣の奥から囁かれる。
紫の長衣は、少女の全身をすっぽりと覆っていた。辺りは暗く、ただ周囲に宿る淡い光だけを光源としているため、フードの中までを覗くことはできぬ。少し長い袖口から覗く指は、しっかりと胸元を握り締めている。
深い悲しみと、激しい慟哭を、その身で感じているのだろうか。
少女の傍らに立つのは、老齢の魔術師。
彼の伸ばした指の先には、背の高い書架に古びた書物が載せられていた。
見れば、書架は一つだけではなかった。それが部屋なのか広間なのか、屋内なのか野外なのか、それは判別しない。それほどに、周囲に凝る闇は深く、濃い。
床には巨大な魔法陣が描かれ、その文字一つ一つが紫の光を放っている。その魔法陣の中心を同じくして、無数の書架が円形を描くように並んでいるのだ。
「そうだ」
魔術師の声は低く、重い。そこには真理のみを語る者だけが背負う、大きな責務が感じられた。枯れ枝のような指が書物をめくり、既に色褪せたインクで綴られた文字を、黄色く変色した爪が辿る。
「辛いかね?」
「……はい」
押し殺した少女の声は震えていた。
「どうして、彼が、このような運命に……」
「では」
魔術師は顔を上げ、そして俯く少女に振り向いた。
「お前に、死すべき運命を抱く者を決める裁定の権利を与えよう」
はっとなり、フードの陰から驚愕に凍りついた唇が現れた。
「選ぶがいい。死を与えられるのは誰なのだ」
しばしの沈黙があった。苦悩する少女に魔術師は歩み寄り、そして頭に優しく手を置いた。
「誰もが死なず、苦しまず、泰平に暮らす世界などというのは存在しないのだ」
つう、と指先で文字列をなぞると、魔法陣の光が一際増したように思われた。
「……ラウローシャス様?」
「見るがいい」
魔法陣の中央がぐんと陥没し、そしてその中央に闇色の柩が現れる。
「客人が現れたようだ…… しばらく下がっておきなさい、愛美」
ラウローシャスは柩に向き直り、そして少女――神楽愛美を下がらせ、ぱたんと書物を閉じた。