間章ⅩⅩⅩⅣ<怜悧なる宣告>
苛立ちが、微細な電流となって表情の筋肉を駆け抜けていく。その動きが、シャトーの執事たるアルベルトは、震えを消し去るように、手袋に包まれたままの五指をぐっと力強く握り締める。
計画に狂いはなかった。現に今、こうして史上かつてないほどの大激戦が繰り広げられようとしているではないか。愚かな人間どもの傍らには、三人の仲間を送り込んでいる。戦を好む自滅願望のある愚者には、己の生み出した幻影の中で身悶えながら戦火に焼かれて死ぬ姿こそが相応しい。
だがしかし、それは問題ではない。あのような者たちなど、我等が本気になって消し去ろうと思えばいつでも実行に移せたのだ。
それよりも、今は大きな問題を我等は抱えている。
我等が主、シャトー・ムートン・ロートシルト様がいまだ、お目覚めにはならぬのだ。
たった今、アルベルトは横たわるシャトーに宝珠を捧げたところであった。以前に吸収された漆黒の宝珠に続き、今度アルベルトが持参したものには、藍色、紫色、琥珀色の宝珠があった。
その悉くを飲み込んでもなお、彼の瞼は開くことは愚か、肉体に目覚める兆候はない。
だが、変化はあった。シャトーの若き肉体は、今や青白い半透明の炎に包まれている。アルベルトが彼に捧げたのは、活動可能領域の中から紡がれた魔力の塊であった。
琥珀、紫、藍、漆黒の色彩は、それぞれ下位の活動可能領域の魔力の属性を示していた。
とすれば、この小さな躰に、総計四つの活動可能領域を象徴する力が注ぎ込まれていることになる。魔術で心を砕かれ、そしてその修復のための眠りに就いているならば、これだけの力を吸収したシャトーはとっくに目覚めていてもおかしくはないはずであった。
「……我が主……いまだ、お目覚めにならぬというならば……」
過剰な魔力が、その激しさ故に幻の炎となって身を包み込んでいる。
炎熱こそ発生せぬものの、その只中にいるシャトーにしてみれば、凄まじい魔力の奔流に晒されているのと同義であるはずだ。
「分かりました、我が主」
呼吸すらせぬシャトーに一礼すると、アルベルトは一度強く、床をステッキで打つ。
「これより、我等がL.E.G.I.O.N.、至高なる王冠を探してまいります……ですが」
くるりと手の中でステッキを回転させ、アルベルトはシャトーの胸に先端を突きつける。
「大いなる王冠でさえ、意識が戻らなければ……我等は一切の救済を中断致します」