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新編 L.E.G.I.O.N. Lord of Enlightenment and Ghastly Integration with Overwhelming Nightmare Episode8  作者: 不死鳥ふっちょ
第三部  Bien qu'il y ait une méchanceté chaude, le monde continue.
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間章ⅩⅩⅧ<支配の終焉>

 一瞬の静寂をおいて、放たれた裂帛の怒号。それは部屋の中を響き渡らせ、聞く者の心に無形の楔を打ち込む。闇に沈むその書斎の中で、ある一角だけがモニターの光によって淡く浮かびあがっていた。


 その中で、黒衣の男の顔だけが、憤怒の形相で光をねめつけている。びりびりと震える唇を何とか押さえ込み、呼吸を整えるジェルバールとは対照的に、スピーカーから聞こえてくる声には嫌味なほどに余裕があった。


「何か、お気に障ることでも申し上げましたかな」


「ふざけるな」


 荒い呼吸の狭間でそう呟くジェルバールの視線は、微笑みを湛えた口元をした一人の軍人に注がれていた。<Taureauトロウ d'orドール>第二騎士団<琥珀アンバー>元帥、テレンス・アダムズ。


「ふざけている心算はございません」


「貴様があの太刀を知らぬわけがあるまい?」


 顎に指をあて、しばらく考える所作をしたテレンスは、やがて大きく頷き。


「ああ、あのSchwertシュベールトMeisterマイスターの持っていた太刀ですな」


「王家所蔵の太刀と言えば一つしかないはずだ。それを見つけておきながら、太刀のみの返納で終わらせようとするなど」


「ですから」


 興奮した口調のジェルバールに、テレンスは口を挟んだ。


「正式にS.A.I.N.T.へ依頼通告をし、ソランジュ様へ運搬は依頼しましたが」


 その言葉と行為に、ついにジェルバールの堪忍袋の緒が切れた。


「貴様、誰に向かって口を利いていると思っている!!」


 一介の騎士団頭領風情が、皇太子の言葉を遮るなどという愚行を犯して良いはずがない。


 だが、テレンスの態度に変容はなかった。


「どうか、お気を鎮めてくださいませ」


 口調は敬語ではあったが、その他の気配に皇太子への敬意はない。まるで聞き分けのない生徒を宥め諭す教師のような声色だった。


「確か、王家から頂きました命令書には、確かに太刀<雷仙>については明記されておりました」


 口元にへばりついた笑みは、相手を見下し、侮蔑し、嘲笑うかのように。


「しかし、それ以上の命令は、頂いてはおりません」


「……何が言いたい、テレンス」


 声のトーンが落ちる。眼前にいる軍人は、どうやら一筋縄ではいかないようだ。


 否、それよりも、この男の目論見はなんだ。


「単刀直入に申し上げます」


 テレンスはモニターに顔を近づけ、そして囁くように呟いた。


「私たち騎士団としてはですね、皇太子殿下の弟君の所在のことなど、瑣末なことはどうでもよろしい、と申し上げているのです」


 無言のままのジェルバール。こみ上げてくる怒気を押さえ込むので精一杯で、言葉を紡ぐことができない。


「それでは、僭越ながら私から殿下にお聞きいたしますが」


 まるで蛞蝓のようなぬめる舌が翻る。


「皇太子殿下……いや、王家の方々は、現在の騎士団の置かれている状況がお分かりですか」


「……テレンス」


 口元に指をあて、詰まったような笑い声を漏らす。


「もう、貴方たちの時代は終わったのですよ」


 王族が支配特権者階級として、騎士団を抱え込む形態の支配の時代ではないということか。<Dragonドラゴン d'argentダルジャン>との抗争のみならず、正体不明のL.E.G.I.O.N.の存在もまま見られる時代において、そのような安穏は何処にもない。


「<Taureau d'or>騎士団を代表して申し上げます……四日後の軍事演習にて、王族の方には現在の騎士団の状況を目の当たりにしていただく」


 一度言葉を切り、ジェルバールの反応を待つテレンス。


 その姿は、皇太子と騎士団頭領の会話などではなかった。両者の間に、精神的な階級差は最早、ない。


「その上で、今後とも我等と共にありたいという方にのみ、我等は門戸を開けましょう……王家としてではなく、我等のスポンサーとして、ですがね」


 不気味なな笑みをそのままに、通信はテレンス側から切断された。

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