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新編 L.E.G.I.O.N. Lord of Enlightenment and Ghastly Integration with Overwhelming Nightmare Episode8  作者: 不死鳥ふっちょ
第三部  Bien qu'il y ait une méchanceté chaude, le monde continue.
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間章ⅩⅩⅦ<獅子を圧する者>

 ゆっくりと踏み出される靴底が、豪奢な絨毯に沈み込む。


 人影は頭から爪先までをすっぽりとくすんだ色の外套で覆い、その中の様子をうかがい知ることはできない。


 ただ、身長がひどく低いことだけは隠せないようであり、座っていてもなお獅子のような巨躯のセクト・ハーレィフォン正宗マサムネ・ザ・ネームレス師団長の胸ほどまでしかなかった。


 どっしりと腰を下ろし、足を組んだままのセクトは、この奇妙な訪問者を眺め、そして唇を吊り上げた。


 統括軍務省長からの召喚状を受け、マティルデ・ミーゼス師団長との会談を終えて二時間後。彼の執務室を、見慣れぬ者が訪問したのであった。


 用件は極秘。手札の一切を伏せたままの申し出に、秘書は謁見を拒絶しようとしたのだが、セクト自らの許可によりその人物はこうして執務室への入室を許されたのであった。


 セクトの視界の中で、それは足を止めた。そして両手を挙げ、フードをばさりと後ろに撥ね退ける。その瞬間、部屋の中に居合わせた者たちは皆、呆気にとられることになった。


 何故なら、フードの下から現れたのは年端も行かぬ少女の顔であったからだ。短く刈られた髪は中性的な印象を与えるが、すっきりと整った鼻梁や頬の線は明らかに女性のものであった。


「……伝言を申し上げます」


 形式的な挨拶の一切を省いた言葉が、少女の口から零れた。


「セクト・ハーレィフォン師団長様におかれましては、このたび我等の軍勢の傘下に入っていただけますよう、とのことでございます」


「女」


 まるで猛獣が唸るような声で、セクトが言葉を発した。


「その伝言より前に、お前が何者かを名乗るべきではないか?」


 先刻の省長の会談における彼はさておき、そのときの言葉は明らかにセクトの側が道理にかなっていた。しかし、少女は表情を変えず、そして信じられない言葉を口にした。


「セクト・ハーレィフォン師団長。あなたの発言は、伝言への是非以外には受け付けておりません」


 それはすなわち、諾と答える以外には口を開くなという意味であった。あまりにも高圧的、そして一方的なその申し出に、直情径行のあるセクトが黙っているわけがなかった。


 セクトが右手を上げると、執務室のドアから机までの距離に左右から警備が三人ずつ、腰に武器を携行したまま居並ぶ。


 そのどれもが正宗師団において開発されたという白兵戦闘兵器Arrancherアランシェ unアン sabreサーブル


 特殊鋼によって鍛造した剱を、上下から凄まじい圧力で樹脂製の車輪で挟み込んだものであった。刀身と、それらの周囲に並ぶように配置された総計三十個の歯車、そして加速器と圧力相殺を目的とした機構を内蔵した鞘は太く重いが、ひとたび抜き放たれれば分厚い鋼鉄をも切り裂くとされる必殺の武器であった。


 ヴェイリーズ拉致の際にも使用されたそれは、Chevalierシュバリエールの筋肉を痺れさせるだけの超絶的な破壊力を有する代物。初撃必殺を旨とする居合にも似た剱術を筋肉トレーニングだけで全師団兵に可能とさせた、いわばそれは量産型の居合術支援装置であった。


 子供の体程度はあろうかという巨大な鞘は内蔵器官全てを保護する装甲に覆われていた。白く装飾のないそれは繭すら連想させる。


 全員で六人の兵が、それぞれにArrancher un sabreの柄に手をやりながら少女への間合いを詰めてくる。


「……女」


 自らの置かれている状況が分からぬか、と言わんばかりの笑みで、セクトが繰り返す。


「もう一度聞く。貴様の……」


「そうですか。ではこれ以上、言葉の通じぬ家畜に付き合う時間はありません」


 最後に一瞥し、少女が背を向けた瞬間であった。セクトの怒気が最高潮に達するのと、六人が刀を加速させるのとはほぼ同時であった。六方向からの斬撃が鞘から抜き放たれたと思った瞬間。


 その刹那、少女の姿がまるで水面に映る像のように歪んだことに気づいたものはいたのかどうか。


 何が起きたのか、それは常人の動体視力で把握することは不可能であった。気づけば六人の兵はどれもが壁に打ち付けられて倒れており、うち二人は折れた刀が胸と腹に突き刺さったまま絶命している。かろうじて命を繋げることができた四名も、身を襲った強烈な衝撃に呼吸すらままならぬ。


 セクトだけが、その異常な事態を前にして無傷であった。対峙する深淵の仮面を前に、まるで追い詰められた小動物のように目を大きく見開いていた。


 それまでは誰もいなかったその空間に、まるで幽鬼のような男が現れていた。


 紫色の霧を纏う漆黒の鎌を手にした男は、素顔を仮面で隠したままじっとセクトを睥睨している。まさか、あの鎌で六つの居合いを全て受けきり、そしてまた同時に反撃したというのか。


「セクト・ハーレィフォン師団長」


 少女は憐憫の表情すら浮かべ、セクトに振り返った。


「せっかくですから、あなたの問いに答えましょう……私の名はオルガ・ペリン、そして彼の名をヒュー・サマセット」


 薄く桃色をした唇は、そして忌まわしき名を口にした。


「我等、L.E.G.I.O.N.は貴方の参加を歓迎いたします」

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