異世界
「あれ?」
つい今しがた、自動販売機で飲み物を買おうとしているところに、突然視界が切り替わったと思ったら、冬夜は草原の真ん中に突っ立っていた。
その顔は思考が追いつかずに、完全にフリーズしていた。
「え?ちょっと待って?俺知らないうちに誘拐されて、草原に置いてかれた??」
ようやく我に返った頭に、なんとか自問自答するが、ただの独り言で終わってしまう。
とりあえず、ここは何処なのかと確認するため、周りを見渡し三百六十度まわってみるが、続いているのは、青い草の海。
遠くを見ても、見えるのは草原だった。
細い木のようなものはあるにはあるが、草のほうが圧倒的に多かった。
日本にこんなにも広い草原地帯あったかな?と、追いついてこない頭で考えつつも、やはり思いつかない。
自分が知らないだけで本当に誘拐されて、草原に放置されたのかもしれないが、意識が一瞬のうちに切り替わっただけでこのような草原に誘拐されたとは考えられない。
そうして周りを見渡すだけでも数十分が過ぎていき、これからどうしようと考えていると遠くの方に馬車のようなものが見えたのを確認した。
「おーーーーーーーい! すいませーーーーーーーーーーーーん!!」
とりあえずここがどこかも分からないなら、現地の人に聞いてみるしかないと声を上げ、視界にうつる馬車に手を振り、自分の場所をしめすように大声で声をかける。
大声を上げることしらばらく過ぎて、ようやく気が付いてくれたのか、馬車は大きく迂回しながらも、冬夜の場所に近づいてくる。
「やっと気づいてくれたよ・・・ このまま気づいてくれなかったら次はいつ人と遭遇できるかわからねーよ・・・・・・・・・・・え??・・・・」
ようやく馬車の手綱を握る人物の容姿を確認できる距離になったとき、冬夜の頭には安堵よりも驚愕に染められていた。
「----------」
絶句した。
冬夜の瞳に映った人物は去年亡くなったはずの、爺さん、八雲正弦その人だったのだ。
「こんななんもない所で一人でどうしたんじゃ、小僧?」
冬夜の驚愕も知らぬまま、馬車に乗った老人がそう訪ねてくる。
「そんな・・・どうして・・・・・・どうして爺さんが・・・」
「なんじゃ?ワシの顔になんかついとるか?」
老人の問いかけにも返さず、冬夜は独り言のようにブツブツ呟いて、老人の顔を驚愕のおもいで見つめていた。そんな視線に老人も気がつき、冬夜に問うが、話は進まない。
「えーと、道にまよっちゃったみたいなんですけど・・・ここって一体どこなんですかね?」
亡くなった爺さんがこんなところにいるはずがない。爺さんにしか見えないが、世界には爺さんにそっくりな人物がいてもおかしくはないと、なんとか現在地を知るために言葉を出した。
「知りもしないで、こんな所に一人でおったのか?ここは、ワラキア大陸の王都レイフォースからずっと東にある草原地帯じゃよ。ここには魔物もでるけぇそんな恰好じゃ食われちまうぞ?」
そんな老人の言葉に冬夜は再度驚愕した。そんな地名や大陸聞いたことも見たこともなかったのだ。
そしてその後に続く、魔物という単語。ゲームやアニメではお馴染みだったが、現実には存在しない。だが老人はあたかも、そんなの当り前じゃろ?とばかりの口調で答えてくる。
ようやく自分が今までいた、地球ではなく異世界にきてしまったのだと実感した。
「とりあえずこんな所で立ち話もなんじゃから、これから王都に商売に向かうついでに乗っけってやろうか?」
「すいません・・・俺もここに来たばかりで迷子みたいなんで、ご同伴させていただいてもかまいませんか?」
とりあえず右も左も分からないのに、断ってしまっては、その魔物というものに遭遇でもしてしまったらたまったもんじゃないと老人の言葉に甘えることにする。
人の多いところについてしまえば、何か手掛かりはあるかもしれないという希望的観測だが、現状それに縋るしかないようだ。
いざ馬車に乗ってガタガタと道かどうかも分からない場所を進みながらも、周りの風景を見るが、一向に景色が変わることはない。だが、知らない場所なのに、何故かこの空気に懐かしさが感じられる。
覚えているはずのない記憶を探すように脳を働かせるが、モヤがかかったようにチリチリと頭痛がする。
「あとどれくらいで目的地の王都につくんですか?」
「そうさなぁ・・・今はまだ昼前だから日が暮れる前にはついたらええのぉ」
昼前ということは異世界の時間なんてものは分からないが、十一時とかなんだろうが、今から七時間も八時間も馬車に揺られるのかと思うと、何もかもがおいついてこない頭で気分まで萎えてしまう。
「小僧・・・名前はなんじゃ?」
「冬夜。八雲冬夜です・・・」
自分からも何か話題を振ろうとしていたところに老人から声をかけられ、少し萎縮するように返答を返した。
「ワシの名前は、スレインじゃ。まぁこんなところで出会ったのも何かの縁じゃ!よろしく頼むのぉ!」
場の凍った空気を溶かすように屈託のない笑みをこちらに向けた言葉に、亡くなった爺さんを思いうかべて、悲しくなるが。そんな感情さえもこの爺さんの笑顔に発破をかけられたように次の瞬間には吹き飛んでいた。
記憶もなく、名前しか知らない厄介なことこの上ない自分を嫌な顔一つせずにここまで育ててくれた爺さん。その爺さんと同じ顔をした人に、自分の不安な気持ちを吹き飛ばしてくれたのに、また萎縮してしまっていては、天国にいる爺さんに笑われてしまう。
「ああ!こっちこそよろしくな!爺さん!!」
だからこそ、それに報いるためにも、目の前にいる爺さんに似た人、スレインに向けて、こちらも負けないくらいの笑顔でそう返した。
ブックマークが増えていて、こんなまだ何も進んでいない小説でも見てくれる人がいるんだなぁと思うとすごく嬉しくて。これからも色々な人に気に入って頂けるように頑張っていきます!!
皆様、読んでいただいてありがとうございます!!
これからもよろしくお願い致します!!