第一章
いい匂いがする。
朝食には特有の匂いがある。
ああ、腹がへった。こんな朝食の匂いを嗅ぐのは何年ぶりだ。
「気が付いたか」
「はっ、私は…そうだ、私は飛び降りたんだ!」
「落ち着きたまえ、身体に響くぞ。」
「君は一体」
「俺は片岡一郎だ。」
「私はどうなったんだ、ここは何処だ?」
辺りを見回してみると、なんだか古めかしい家具や本が目に入った。
「ここは俺の家だ。君は何故か俺の家の前に降ってきたんだ。家の前に寝ていられちゃ困るからな、ここは客間だ。」
「そう…だったのか。失礼した…」
いやおかしい、私が飛び降りたマンションの下には駐車場があった。民家など…
私は布団を跳ね除け立ち上がり、、窓から外へ顔を覗かせた。
「なんだ…ここは」
私は唖然とした。
その景色は平成の横浜ではなく、又平成のどの地域にもない光景であった。
「片岡…一郎君?今は平成何年だ。」
「平成とは何だ。今は昭和だ、昭和33年だ。」
「1958年…そんなことがあるものか」
「嘘だと思うならば新聞でも読め。頭でも打ったか?」
手渡された新聞を開く。
1958年、7月8日
東海道新線 着工いそげ 東京~大阪三時間!
「そんなまさか…」
「凄いだろう、東京から大阪まで三時間だ。時代は着々と進化しているな。俺はいまマイカーを手に入れるために貯金中さ。庶民だからな、まだ到底及ばないが…」
ここが昭和の横浜だとしたら、私はタイムトリップなるものをしたようだ。それともここが、新手の死後の世界なのか。
頭を抱える私に、片岡一郎君は朝食をご馳走すると言ってくれた。