表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

雨上がり その後

作者: 向日葵さん

続き~!


夏がきた。

朝の仕込みを終えると、ラジオのスイッチを押した。


カラン!


おはよ~!


いつもの時間より、五分遅い。

多分息子とじゃれていたのだろう。

雨のカラオケのあと、

卓也さんとは親しくなっている。

屈託のない明るさと、前向きで元気な彼の性格が、私の受け身だった性格を少しずつ変えてきたような…


持ってきたよ、頼まれてた本


いつもありがと~

はい、サンドイッチ作っといたよ!


卓也さんは、食べ物に対して飽きる事を知らない。

この私が作ったとはいえ、毎朝サンドイッチでは嫌だろうと思うのだが。


有美ちゃんのサンドイッチがないと、1日が始まらないよ


この性格も最近では慣れて、うざい時もあったりなかったり、ごめん。


コーヒーある?

どうしたの?ぼけっとして、トイレ?


ちがう!


もう少し、デリカシーがあったらな~。

いい人なんだけど…


卓也さん、今日の夜大丈夫なの?


ああ、約束は守より~

じゃ、行ってきます!


毎朝会っているのに、夜のデートを楽しみにしてる自分がいる。

やっぱり、デートの時の優しさは嬉しいかも…

子供扱いとも、お姫様扱いとも、とれるのだけど。

持ってきてくれた本に目を落とす。


あれ?


何か挟まってる。


紙?しおりかしら?


手紙だ。まだ新しい、と思えるほど可愛い柄の封筒。


誰から~!?


差出人不明。あたしに?

何だろ?

開けてみる。中からはこれも可愛い柄の便箋が三枚。


好きだな~。長いの嫌いだって言ったのに


広げてみた。

眺めてみた。

待ってみた。


ない

私の名前が、ない

代わりにあったのは


那智


誰?友達?なちって男?


わけが分かって慌てて閉じる

私あてじゃないんだ。

と、同時に何?

この気持ち、考えたくないですけど。

分かっていても、振り切れそうにない。

今まで考えた事なかった。


卓也さんて、彼女いるの?


息子がいて、離婚してて、足が臭くて、デブデブで、

で、何?

彼女いるわけない。


じゃ那智は?

???


9時になったとラジオが明るく告げる。

暖かい日の光が差し込む店内で、固まる私。


那智、なち、naci…


そっか、手紙に誰か書いてあるじゃん!

危うく苦しむとこだった、ルンルン。


私嫌い!

こんな気持ちにさせた卓也さんも嫌い。

今日は、少し朝から飲もっ。


冷蔵庫のワインを手にすると、グラスに三分の一程ついだ。


カラン!


いらっしゃいませ!


見ると、年の頃三十歳位?のスレンダーなお姉さん。

ブランド物はバックだけ、だけど夏が服着て歩いてきたみたい。

肌は小麦色で、あれなら小さい胸だってセクシーに見えるだろう…

手にした本をカウンターに置くと、


コーヒー、あとサンドイッチある?

一押しあったらそれで


サンドイッチはどれでも、私が作るから美味しいって卓也さんが言ってくれたもん。

一押しは卓也さんの好物なはず。

出したくないな、今日は。

コーヒーなら、沢山飲んで欲しいのになぁ。


お待たせしました


美味しい、サンドイッチうまぁ~い


ありがとう


あなたが作ったの?


はい、この店オリジナルです


少し休んでいっても、いいかしら?

外は暑くて、本が読めないの


いいですよ、ごゆっくり


夏女の手にした本を、さりげなく見る。

小説だ!

確か、同じ作者を卓也さんも読んでたっけ。

面白いのかな?

そういえば、朝の手紙。

思い出したくなかった。

卓也さん、本好きだからなぁ。

多分、大切なひとなんだろなぁ。


夏女、コーヒーをご所望。


あなたも、本好き?


あまり…


そう…この作者の小説は読みやすいわよ

恋愛物なんだけどね……でね……だから……


聞いてないし。頭の中、見せたい。

卓也さん、本、那智、恋愛、コーヒー、サンドイッチ、

卓也さん、本、那智、恋愛

卓也、那智、恋愛

卓也、那智

那智


誰?

誰なの?

那智、私知ってるかな。

もう、我慢出来ないよ~。

でも、お客様は神様でしょ~。

読めないね~……


気になる、那智。

ま、私仕事中だし。


彼女なのかな、好きなのかな……。

そう言えば、私の事好きって言ってない!

サンドイッチもうやめた!

朝も会わない!

仕事中だし!


御愛想して!


カラン!


また、1人。

手のひらでカサカサ音をたててる手紙。


那智へ、

この間はありがとう。楽しんだね。

あれから考えたんだ、俺たちの事。


いつあってんだ!

俺達の事?元女房かな?


那智の性格じゃ、俺の方から折れないと言い出しきれないと思って。

だけど、怖いから手紙でごめん。

俺の弱さ受け止めてくれるのは那智が一番上手いな。

ありがとう。


私の知らない事?

いつもの卓也さんは誰?

弱いの?


那智が、そっちへ行ってから半年だったけど、相変わらずだよ。

あの頃、分からなかった事、今なら分かる気がする。

那智の言うとおりにしようと思う。

二人の為にさ。


もうダメ!

二人の為に言うなり気なり!

そんなに弱いの?

那智なんて、半年前に行っちゃったんだよ!

もう、読めない。

分かった、卓也さん好き過ぎて、

恋は盲目って言うもんね。


カラオケいきたいな。

卓也さん、上手いよね……

那智と行ったのかな。

会うとき、カラオケかな?

もしかして、私だから?

本、読まないから?

これから読むのに、せっかく借りてあげたのに。

せっかく、サンドイッチ作ってあげたのに。

明日の朝も、今日の夜も、こんな手紙読ませなければ、仲良くしてあげるのに。

なぜ、那智?

私、卓也さんの事どう思ってるんだろう?

那智は?

取られたくない。

言われた事ないけど、きっと私の事好きだよ!

那智じゃない!

言われたことないけど。

息子の話してくれたし、毎朝来てくれるし、サンドイッチ残さないし、

手紙欲しい。

そっか、手紙書こう。

私がこれだけ欲しいんだもん、卓也さんも喜ぶ?

やっぱり、好きかも……

いやいや

でも、

いやいや

まさか、

そんな、

え~、好きなの~

いきなりだよ

でも、好き


カラン!


有美ちゃん、お待たせ~!


振り向くと、いた。

思いっきり抱っこ~!

ぎゅーっと!


どしたの?

サービス?


那智って、誰?


前の女房。息子2人の為に今度会って話し合うんだ。何で知ってるの?


ねぇ、付き合って……


うん、いいよ

俺、有美ちゃん大好き!


バシバシ、お前弱いんだろ!

そんなに明るくないだろ!

バシバシ、卓也さん見せてよ


何を


何でもない


泣いてるの?


うん


おいで、有美がなくなんて

泣かないで、前から好きだったんだ

ホントだよ

これからも、ずっと一緒にいようね


うん


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ