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【五話◑◐本音と建て前】

 影祈が部屋に戻って思案していると、コンコンと扉が叩かれた。

「だれ? 開いてます」

「あ、本当だ。お邪魔しまーす」

 入ってきたのは籐矢だった。彼は影祈の部屋を見渡した。物が多いがきちんと整理整頓がされている部屋である。影祈は窓辺に椅子を置いて中庭を眺めていた。

「……どうしたの」

「イヤー、さっきから元気がないからどうしたのかなぁ、と思って」

 影祈は勢いよく振り向いた。その顔にはバレてた? とでも言いたそうな表情があったが、すぐに表情を変えた。

「だ、ダイジョーブよ! 私はまだまだハイテンション! 踊っちゃうもんね!」

 そう言うと、椅子から降りて本当に踊り出した。身をくるりくるりと回転させる。髪がふわりと舞って月光に照らされた。籐矢は一瞬目を奪われた。

 ───なんて綺麗なんだろう。

 しかしすぐに籐矢は笑い転げ始めた。綺麗だが、その踊りはあまりにも稚拙立だったからだ。

 影祈は籐矢が笑っているのをみると、踊るのをやめて一緒に笑いだした。一通り笑うとすっかり気が楽になった。そしてふと、籐矢がこちらを見ているのに気づく。

「……なによ」

「ん? 元気出たなー、と思って」

「もう、お節介なんだから。用が無いなら、もう出ていって頂戴」

 ぐいぐいと扉まで籐矢の背中を押す。籐矢を扉から出す直前、影祈はポツリと言った。

「……ありがと」

 籐矢は思わず振り返った。影祈の顔はほんのり赤くなっている。影祈は籐矢と目が合うとプイッと顔を反らして、籐矢の背中を押した。不意を打たれた籐矢は、簡単に扉という名の線を越してしまう。

 ピシャリと扉を閉じると、影祈はもう一度呟いた。

「───ありがと」

 と。




 影祈に部屋から追い出された籐矢はポカンと大口を開けて呆けていた。影祈のあの見事なツンデレの衝撃が抜けなかったのだ。

 だが、やがて自分の部屋ではなく、幽の部屋に向かって歩き出した。そして間もなくあり得ないことに気がついた。

 ───迷ったぁ! 確か幽ってやつの部屋って、俺のの部屋の近くだったはずなのにっ!

 ちなみに、お風呂で着替えを手伝ってくれたあの使用人情報だ。年齢が近そうだから是非話を聞きに行きたい、と言ったら影祈の部屋に行く途中にあっさりと教えてくれた。

 廊下に突っ立って汗をダラダラと流していると、近くの部屋で言い争っているような声が聞こえてきた。籐矢ははっと真顔になると、声のする方へ音を立てずに近づいた。ちょっとだけ、と思いつつ耳をそばたてる。

 すると、

「き、貴様! もとからそのつもりで……!」

「さっきからそう言ってるでしょ? それにそろそろ潮時だしね。今まで本性隠してた僕って、すごいと思わない? ───さて、阿月様にはちょっと犠牲になってもらうよ。大丈夫、阿月様の大切な娘様は無事だから。大切な“器”だからね……」

「っ!」

 ───なんだって? “器”? てことはもしかして……。

この声は阿月と幽だ。幽の口ぶりにある可能性に至ると、籐矢は立ち上がって懐に右手をやりつつ左手で扉を開ける。

 ───あいつ今、犠牲と言っていたな。

 念のため突入しようと思案した直後、

「貴様、本気か!? そんなヤツを呼び出してま」

「残念。阿月様が思ったよりもバカみたいで僕は笑えるよ」

 ズブリと音がした瞬間、籐矢が部屋の中へ足を踏み込む。籐矢が目にしたのは、短刀を胸に刺され背中から倒れて行く阿月の姿と、天井を突き抜けそうな大きさの黒い怪鳥が身を縮めている姿だ。

「あれ? もしかして聞いてた?」

 怪鳥の影から現れた幽に向けて、籐矢はいつでも応戦に出られるように懐に手を入れたまま身構える。

「お前、俺と昔、あの湖の近くでやりあってたヤツだろ」

「ふふ、それ秘密」

「じゃあ、影祈ちゃんが“器”と言うのはどういうことだ」

「それも秘密。本人来たしね」

 たったったっ。軽い足音がしたから籐矢は思わず振り向いた。そこには籐矢が開け放した扉から、こちらを見ている影祈がいた。

「なにこれ……」

 影祈は幽と籐矢に気づいていたが、その視線はただ一点のみをみていた。それは、

「と、うさま……?」

 血を流して倒れている阿月だった。阿月の方へふらふらと近づこうとしている影祈を、籐矢が慌てて手首を掴んで抱きすくめる。

「行くなっ!」

「でも」

「影祈ちゃんのお父さんをやったのは幽だ! 自分から近づくなっ!」

「ゆ、う様が……? どうして……?」

「それは秘密♪ そんな表情の影祈も素敵だね。籐矢クン影祈の顔が見えないから、退いてくんない?」

 ねっとりとした視線が影祈を捕らえた。籐矢はその視線から守るように、影祈をますます強く抱きすくめる。

「お前みたいな危険人物の言うことを素直に聞くと思うなよ」

「酷いなあ? でもまあ、バレたからもうここにはいられないかな」

 本当に幽がやったのかと影祈は愕然とした。

 籐矢は影祈を抱いたまま、右手を懐から出した。その手には銃が握られている。その銃を片手に持ったまま、標準を幽に合わせた。それに気づいた幽は面白そうな顔をするとこう言った。

「へえ。籐矢クン、そんな面白そうなモノ持ってたんだ。見た目からしてここら辺の人じゃないと思っていたけど、もしかして輝人[かぐびと]? 懐かしいね。僕ってば昔、その武器相手に無傷で闘ったことがあったな~」

「たぶんそれは俺だろ? 俺もお前みたいなヤツと闘った記憶があるからなっ」

 発砲する。

 重い音を立てた弾丸はまっすぐに幽へ飛来したが、幽は右へと一歩踏み出すだけで避ける。

「あーあ。うっかりその懐かしいモノのおかげで、余計なことを喋っちゃったや。まあ、それでも問題ないけどね。今回も僕の勝ちだよ、籐矢クン?」

 影祈はもうわけが分からなかった。籐矢が輝人? 幽は敵?

「幽様……」

 影祈が瞳を臥せつつ幽の方を見た。その姿はあまりにも儚げで籐矢は離したくなかったが、影祈に小首をかしげられながら見つめられ、名残惜しそうに腕をほどいた。

「お話をしてください。何でこんなことを」

「それはダメ。教えられないよ、まだね……」

 幽は不敵に笑うと窓に近づく。

「──還れ、幻獣──」

 幽が一言呟くと幽の足下の陣が移動して、怪鳥を飲み込んでいった。影祈はその時初めて幽の足下に陣があることを知った上に、思いもよらない光景を目の当たりにして、驚愕する。

「どうして……? 召喚獣術を使っているのに移動できるの……?」

「さあ、何でだろうね? ───さて、そろそろおいとましようかな。影祈、絶対に迎えにくるから待っててよ」

 にこにこと無邪気な笑顔で影祈に笑いかけながら、幽は窓に足をかける。

「待てっ!!」

「やーだよ。待たない」

 籐矢が咄嗟にもう一度発砲するが、幽はその一瞬だけ早く窓から身を踊らせた。

 空中で素早く呪文を唱え、先ほどの怪鳥を呼び出す。その怪鳥の背に落ちるように飛び乗ると、影祈を一瞥してから空へと飛び立った。

阿月「作品を切磋琢磨するのは良いことだ。どうか感想やランキングなどよろしく頼まれてくれないか?」

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