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【四話◑◐嘘と本当】

「キミは急に俺の顔を張り倒したよね」

 籐矢は苦笑気味になりながら言った。影祈は一瞬で記憶が呼び起こされる。湖のそばで倒れていた男の子。怪我の手当て。背中に突き刺さった小刀の衝撃。自分に延ばされた手。

 ───もしかして。

 影祈は尋ねた。過去の、この場所で出会った自分達の事を。

「そうだよ。俺達はここで会ってる。暗闇の中だったけど、お互い共有の記憶が有るなら確かだね。懐かしいなあ……」

 籐矢は目を細めて微笑んだ。その表情に影祈は僅かな戸惑いを得る。

「……ごめんなさい。私、その時の記憶が曖昧なんです。私が倒れたとき籐矢さんは何て言ったんですか?」

「敬語じゃなくていいですよ、タメ口で。俺もタメ口だから」

 籐矢が屈託無く笑うと、影祈はほっとしたような表情になった。いいわよ、と言うと籐矢は頷いて口を開いた。

「あの時、俺が言ったのは“待て”。俺が戦っていた相手にキミが狙われてね。倒れたキミをそいつが連れて行ったからなんだ」

「───え?」

 影祈は周囲から音が消えたように感じるくらい茫然とした。考えたくない可能性が浮上した。もし本当ならば、あの人は何を考えているのだろうか。

「影祈ちゃん? どうしたんだい?」

「今言ったこと、本当なの……?」

 こくんと籐矢は頷いた。その瞬間、影祈の世界が一つ、嘘に塗り直された。

 ───様子がおかしい。

 影祈の顔色が悪くなっていることに籐矢は鋭く気付いた。大丈夫? と聞こうとしたその時、

「影祈~、無事だったかい!? はっ、どうしたんだこの顔色は!? お前、影祈に何をしたんだっ!!」

 ───ナニコノハイテンション。

 籐矢は呻いた。

「幽様、大丈夫です。屋敷に戻ります。お前達、あそこの者を屋敷に招く手配を。私の命の恩人です」

 幽が連れてきた使用人のうち二人を先に屋敷へと返し、その後で影祈が先頭をきって歩いた。

 籐矢が後ろに続こうとすると幽と目があった。幽はニヤリと笑うと、人差し指と親指だけを立てた模造の銃で籐矢を撃つフリをした。その仕草を意味を知る者はこの世界にそうそういない。籐矢ははっとすると、腰の剣に手をかける。しかし、幽は内緒とでも言うように唇に指を当てて、籐矢から視線を外した。

 ───どういうことだ?

 影祈に話そうかどうか迷ったが、結局は辞めた。今言うと、情緒不安定っぽいから。




 そんなこんなで屋敷に着いた一行は、まず風呂に入った。こんな姿で影祈の父の前に出ようとは思わない。淋家は仮にも貴族。その当主と会うのだ。家族である影祈でも、乱れた服装で会った事は一度も無い。

 籐矢は借りた服の着方が分からずに戸惑っていた。

「あるぇ?」

「手伝いましょう」

 苦笑しながら、使用人の一人が脱衣所に入ってきた。自分より背が少しだけ高いが、年齢的にはそう変わらないだろうと思われる男だ。彼は素早く籐矢に衣を着付けていく。

「手慣れているね」

「それはまあ、毎日着ている衣ですからね。逆にあなたの着ていた衣の方が珍しいんですが、どこの地方のもので?」

「そーだなー。この世界の反対側って言っておこうかな?」

 ニヤニヤと笑いながらじっとしていると、すぐに着付けは終わった。

「あなたが着ていた衣は洗濯をしておきますんで、ご入り用の時にはお申し付け下さい」

「おお、優遇されてんな。ありがとう」

「当然です。姫様の恩人様なのですから」

 さっぱりとした籐矢は、この使用人に案内されながら影祈の父のいる大広間へと向かう。その途中、幽と言うヤツについて考えた。

 ───もしかしたら、幽とやらは“アイツ”かもしれない。俺が再びこっちに呼ばれた理由も頷けるな。そうなると、幽ってヤツの目的は……。

 ガンッ。

「いったぁ……」

 ぶつぶつと考えながら歩いていたせいで、前方不注意だったようだ。柱に激突して火花が散る。

「だ、大丈夫ですか?」

 頭を抱えて呻いていると、慌てて前を歩いていた使用人が引き返してきた。籐矢はそれに「大丈夫」と言うと立ち上がって歩き出した。そして、一際立派な襖の前で使用人は止まる。

「こちらが大広間です。姫様と幽様はもう席に着いておられます」

「了解」

 襖が開けられて中に入り、別の使用人が籐矢を席へと案内する。影祈の方をちらりと見ると、表情は曇っていたが血色は随分良くなっていた。割り当てられた席に着席すると、隣が幽であることに気付いた。籐矢は今の今まで考えていたことが全て吹っ飛んだ。

 ───げっ。このテンション高いヤツの隣かよ!

 生物的嫌悪を軽く覚えたが、気を取り直した。こいつは敵であるかもしれないのだ。もしかしたら、先程のように手がかりを落とすかもしれない。あれこれ考えるうちに影祈の父であり、淋家当主の阿月が入ってきた。

「籐矢殿とお見受けする。この度は我が姫をお助けいただき感謝いたす」

「いえ、そんなたいしたことではありません。当然のことをしたまでです!」

 うっかり緊張して声が裏返ってしまうが、阿月は豪快に笑い飛ばした。

「そうか。何にしてもこの礼は必ずいたす。それにしても影祈、式を逃げ出すとは頂けんなあ」

「ごめんなさい、父様。けど、急に式を挙げる父様もひどいです。私は何も知らされてませんでした」

「そうだったかなあ? まあ、お前も年頃の娘だ行き遅れるよりはマシだろうと思ってやったこと。許してくれんか」

「……父様にそこまで言われたら許すしかないでしょう」

 怒ったような口調が柔らかくなり、呆れた口調になる。阿月は絶対狙ったなと籐矢も呆れた

「幽君も迷惑をかけてすまぬ」

「問題ないですよ~。今回は私が未熟が原因で影祈を守れなかったですし。その点では私が謝罪しなければなりません」

 そうこう言っているうちに食事が運ばれてきた。阿月が一旦会話を切り、食べる事を促す。全員、食物に対する感謝の祈りを捧げてから手をつけた。しかし、影祈はその中でずっと黙り込んで黙々と俯きながら食べていたのを籐矢は見逃さなかった。

籐矢「僕のためにもランキングお願いね! 有名になれば、影祈ちゃんも僕のこと気になってくれるよね?」

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