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【二話◑◐ヘタレと強気】

 キイン、キインと剣と魚の鱗がぶつかる音の響くあの場へと戻ってきた影祈は、目を丸くして驚いた。巨大魚が鱗を飛ばして茶髪の青年に攻撃していたのである。防戦一方の青年は、それでも影祈の姿に気づいた。

「何で戻ってきた!」

「貴方の援護の為!」

 影祈はそれだけ言うと懐から、持つ所に五芒星が彫られた鍵を取り出した。行方不明の兄が、行方不明になる直前の夜にくれたあの鍵である。

「──力を持つ者の扉、

   我が鍵と繋がる扉、

   幻の獣の為の扉、

   幻の獣よ、

   その扉をくぐれ、 ──」

 影祈が一定の調子で言葉を紡ぐと、目の前の地面に青白く発光する陣が浮かび上がる。その陣がゆっくりと浮上すると、その下から古風な門が出てきた。白い大理石でできているようなその門は、扉の部分に狼の意匠が彫られているだけの質素な物だ。影祈はそれを見て言葉をもう一つ紡いだ。

「──顕現せよ、風狼──」

 キイィィ……。

 扉が音を立てて開く。厚みの無い門の筈なのに、白銀の狼がのそりと現れた。白銀の狼が現れると、陣が門を押し潰すように地面に下降した後、一度回転してから影祈の足元に移動した。同時に影祈は足に枷がついたようにその場に縫い止められる。

『久ぶりノ獲物ダナ……』

 ニタァと白銀の狼が口元を歪める。この狼こそ、影祈の召喚獣術。影祈が兄から貰ったあの鍵は淋家に代々伝わる召喚獣術の契約の証らしく、前所有者の兄から今代の所有者として授けられた物だ。ちなみに、影祈の父は影祈がこの鍵を持っている事を知った時に、この鍵の使い方を教えてくれた。父は兄が受け継ぐ前の所有者らしい。

「くす。今回の援護は大きな魚よ」

 狼と普通に会話をする影祈に青年は目を丸くするが、その手は鱗を捌くのに忙しい。

 ───幻獣を喚んだ? という事は彼女は召喚獣術を使えるのか。

 青年は好奇心でちろりと一瞬だけ背後にいる影祈へ視線を向けた。しかし、その一瞬が命取りとなる。鱗を捌き切れずに、幾つかが影祈へ飛来した。

「しまっ……!」

 しかし、パシンッという音と共に鱗が地面に落ちた。

「くす。召喚獣術の陣は、幻獣の神力によって結界の役割を持つのよ」

 召喚獣術を使う術者が死んでしまった幻獣は強制的に門の内側に戻ってしまい、次の術者に契約の証が渡るまで眠りにつく。幻獣の門からの解放は、術者が解放の呪を唱えた時のみ。門の内側に戻って眠りにつくよりも、定期的に外に出るのを望む幻獣達は、陣に自分の神力を流して結界の役割を持たせる。契約の一環だ。

「風狼行くよ。

 ──飛ばせ、突風──」

『ルッルルゥ……』

 ゴウッ!

 白銀の狼が一吠えすると、息を吸う事さえ困難な風が吹いて、巨大魚の鱗を吹き飛ばした。木々がざわめく。そして影祈は、見知らぬ青年まで吹き飛ばしてしまった事に気づいた。

 ───や、やばっ!

 影祈は慌てた。術を使っている間は動けないのである。たらたらと嫌な汗が背中を伝う。

「ごめんなさ~い!」

「大丈夫ー! ……っと!」

 青年は巨大魚のヒレのような部分を掴む。かなりな大きさで掴みにくいが、握力に任せて自分の体を支える。剣を鱗の隙間に差すことで体勢を整えた。それを見た影祈はほっと胸を撫で下ろすと、巨大魚を睨んだ。

「風狼、次。

 ──駆けろ、鎌鼬──」

 影祈は精一杯集中した。次で決める勢いだ。それに応えるかのように風狼は飛んだ。空を駆けるその姿は雄々しく勇ましい。青い空に白銀の筋がかかる光景は神秘的で、状況がこんな状況でさえなかったら拍手喝采だっただろう。

 目にも留まらない速さになった時、駆けた時の風で巨大魚の鱗が次々と剥がれ落ちていった。それを青年は見逃さずに、鱗の剥がれた柔らかそうな眉間まで、残った鱗を足場にして注意深く移動した。そして剣を遠慮なく突き刺した。しかし、思ったよりも刺さらなかった為、一度柄から手を離して軽く跳躍する。ダンッ、と全体重をかけて真上から剣を踏んだ。それを幾度も繰り返す。その姿はさながら道化師のようだが、しっかりと剣は巨大魚に突き刺さっていった。

 ズブッ……。

 一際鈍い音を立てて、巨大魚から血が噴き出した。それを見た影祈はうへ~っと顔を歪めた。かなりグロい。辺りは血だらけで湖までもが赤く濁ってしまった。青年も血を浴びて真っ赤である。影祈は陣のお陰で無事だったが。

「ふう」

 全てを見届けると影祈は風狼を扉へ帰した。帰す時の手順は簡単で「──還れ、幻獣──」と言うだけでよい。そうすれば、陣と共に白銀の狼は存在が薄くなりやがては消えていった。

 そして、青年の方に向き直った。てっきりまだ幻獣の所にいるだろうと思っていた影祈は、手を伸ばせば触れられるほどすぐ近くに彼が来ていて思わず後ずさった。

「え、えと……。巨大魚もどきから助けていただいて有り難う御座います。先程は術に巻き込んでしまってすみませんでした。恩人様、どうか御無礼をお許し下さいませ」

 影祈は良家の姫らしく深々と腰を折って礼をした。すると相手は途端にあたふたしだす。

「あ、頭を上げて! どちらかというと俺も助けて貰った方だから、おあいこだよ影祈ちゃん!」

 ───……え?

 思わず影祈は首を上げた。何故、彼は自分の名前を知っているのだろう?首を捻る。

「忘れてるね。俺は藤矢[とうや]だよ。ほら、五年前にこの湖で会ってる」

 影祈はきょとんとした。

幽「なんかね、作者がランキングに投票してくれって懇願してたよ♪ ね、影祈!」

影祈「鬱陶しいんで近寄らないでください」

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