【十二話◑◐悲嘆と冷徹】
素朴な意匠の壁に挟まれながら神殿を歩く人影が二つ。それらは小部屋がある度にそこを覗き込み、何かを探している素振りを見せた。
「ねぇ、籐矢さん☆」
「なに?」
蘭夏という少女に声をかけられて、小部屋を覗いていた籐矢という少年は聞き返した。探し物が見つからなかったらしく、廊下に出てきて先に進む。
「あれって本当にいいんですか☆」
「………」
無邪気な蘭夏に、籐矢はぎこちない笑みを浮かべながらも応答する。
「……いいんじゃない?」
「よくありませんよぉっ!? どう考えても祟られますよぉっ!?」
珍しく蘭夏が真面目に反論する。
実はこの二人、神殿に入る時に、神殿を囲っていた結界を破壊したのだ。恐らく幽が張り巡らせた物なのだろうが、何分方法が悪かった。
うっかり神殿の入り口部分の大規模まで壊してしまったのだ。
使用したのは籐矢の銃なのだが、科学の武器では不思議の力の結界を壊すことは難しい。なので、蘭夏に頼んで弾に風の力を込めて貰ったのだが、それが失敗だった。
予想以上の速さの弾に、蘭夏の風がおいて行かれた。
しかも結界は物理衝撃でも壊れる作りだったようで、弾丸が結界を壊し、収束された風が入り口部分を少々壊してしまった。
神殿内に入れはしたけれど、ボロボロの外見な神殿が、二人の手によって余計無惨になってしまった姿は、かなり哀愁を漂わせていた。
「大丈夫だって。外が多少壊れても、神殿の機能は働いてるさ。……たぶん」
「……輝人って皆そんな性格なんですかぁ?」
「いやいやいや」
全輝人の為にも全力で首を振った。輝人にもきちんとまともな人はいる。
そんな他愛もない会話をしていると、奥の方から音がした。音の反響からして、随分奥の方である。二人は顔を見合わせた。
「行く?」
「イヤです☆ 神様のお怒りの印だったりしたら本当にイヤなんで」
籐矢は顎に手を添えつつ、思案した。結果、
「イヤですってばあああぁぁぁ!!」
嫌がる蘭夏の腰を左手でさらい、自らも体勢を低くして、滑走する体勢になる。
「行くぞー」
「ふぶっ!?」
走り出す。その瞬間に、蘭夏を担いだ。衝撃で蘭夏は呻く。
籐矢は自分の限界のスピードで駆けた。向かうは神殿の最奥部。寄り道していたから広く感じていたが、一端目的地が定まれば、神殿内は狭く感じられた。
そして籐矢は探し物を見つけた。それは輝人の世界との境界の部屋、神殿の最奥部にいた。籐矢は部屋に入る前に、中の様子を窺う。
そして籐矢は舌打ちした。
───こんな所で力を使って、輝人の世界に影響が出たらどうする気なんだ。
そう。
影祈と幽が、それぞれの召喚獣術で呼びだした幻獣を、そばに控えさせて対峙していたのだ。
涙目になっていた蘭夏を、籐矢はおろしてやる。
蘭夏も籐矢と一緒に中を覗く。
「幽君。こんな事しても意味ないでしょ?」
「いいんだ! 僕は陽望と一緒にいられればそれで……!」
幽が声を荒くしているのに気づいた二人が、次に視線をやったのは影祈だった。
「影姉?」
「違う。影祈ちゃんじゃない」
その声で、幽と影祈は振り返る。
「そうだよ、この人は影祈なんかじゃないっ」
籐矢と蘭夏はキッと幽を睨みつけた。
「残念だったな! 今は取り込み中だからあっちに行っていろ! ──かかれ──」
幽が側に控えていた怪鳥に命令すれば、怪鳥は籐矢達目掛けて突進した。さすがに室内で飛ぼうとは、幻獣も思わないらしい。
「行きます☆ 颯舞!」
部屋に入って天井がかなり高いことを確認すると、身軽に蘭夏が跳ねる。軽々と怪鳥を飛び越してしまった。
籐矢も当てないように、それでも怪鳥の頭部に触れるか否かの場所にめがけて発砲し、怪鳥を怯ませると怪鳥の足元をくぐり抜けた。
蘭夏が上空から幽めがけて蹴りを繰り出そうとする。ひらひらと衣が膨れ上がり、蘭夏のどちらの足が繰り出されるのか予測が出来ない。しかも下からは籐矢が突進してくる。逃げようとする方向には影祈と風狼が立ちはだかっている。
一瞬の逡巡が、結果を左右する。
幽は見事に蘭夏の蹴りと籐矢のタックルを同時に食らった。
「ガッ……!」
地面に仰向けで倒れる。籐矢が追い討ちをかけるように幽へ跨がり、銃を目前で突きつける。
「ボスキャラの割には弱いけど、俺って優しくないんだ。───お前がどんなに弱くても、場合によってはこの引き金を引ける。説明しろ。なんでこんな事をした」
冷ややかな瞳で幽を見下ろす籐矢の心は、氷のように冷たく、刃のように鋭く尖っていた。それは先程まで蘭夏と笑いあっていた表情とは全く違っていて、蘭夏はぞっとした。あの瞳に射抜かれたら、蘭夏は恐縮して全く動けなくなるだろう。現に幽もその瞳に呑まれて動けないでいる。
冷ややかな沈黙を破ったのは影祈、いや陽望であった。彼女は目を臥せて、静かな謝罪をした。陽望は右手で左腕の袖を握る。
「……ごめんなさい、あたしのせいなの。あたしは陽望。影祈の姉よ。今、幽君の術で影祈の身体を乗っ取っている状態なの。でも信じて、あたしはコレを望んでいなかったの。こうならないように、籐矢君をこっちに送ったのよ……」
「……その口調、依頼主?」
「えぇ。見ず知らずのあたしの依頼を引き受けてありがとう、火学の時期当主」
陽望は腰を落として、丁寧な礼を取る。籐矢は銃を幽に突きつけたまま、首を捻って陽望を見た。
蘭夏「なんか話がややこしいですぅ☆ 作者に改善してほしい所があったら言ってやってください☆」




