【序章◑◐消えた兄】
その日は私の誕生日だった。祝いの席を終わらせた後、部屋に戻ると兄様がいた。
「にいさま?どうなされたのですか?」
兄様は微笑んだ。そして、
「影[えい]。これは僕からのお祝いだよ。大切にするんだよ」
と言って、持つ所に五芒星の彫ってある鍵を一つくれた。兄様はいつも誕生日になると可愛らしいお花をくれるが、その日は違った。花のようにいつかは無くなってしまう物てはなくて、いつまでも形の残る物をくれたんだ。私は、嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
「にいさま、ありがとう!」
「どういたしまして」
私が兄様に抱きつくと、兄様は私をぎゅっと抱きしめてくれた。それからすぐに兄様は部屋に戻って行った。
私はこの時、未来で何かが起こるとも知らずにすぐに寝台に身を横たえると、ストンと眠りについてしまった。
次の日になって私が起きると屋敷は騒がしかった。何事かと思って近くにいた使用人に話を聞いて初めて、兄様は屋敷から姿を消していた事を知った。あの鍵だけを残して……。
これが私の一番古い記憶。埃を被らずに覚えていたこの記憶の日はそう、七歳になる誕生日の日。子供が神様の元から正式に離れる日。この日の事を私は決して忘れないだろう。あの鍵と共に……。




