18‐2暗闇の森林
バンッ!!
黒い静寂の中、突然として爆音が鳴り響いた。
ルナの足を撃ち抜き、ゴスパさんの命を奪った物と同じ銃声だ。
「どうして…ですか…?」
目の前の光景に俺は唖然とした。
トレイ先生の手に握られた拳銃から静かに煙が立ち上っていた。
銃口の先にいる人物。
それはトレイ先生自身だった。
自身の肩を撃ったのだ。
「さあ、これでおあいこです。何故か術が掛かっていなかった貴女に、偶然武器を取られ、偶然油断して撃たれた、ただそれだけですよ?」
自嘲気味に笑うトレイ先生。
銃口が今度はこちらを向く。
「おい!何の音だよ!?」
寝ていた誘拐犯の目が覚めたようだ。
ニコッと笑って
「さあ、行きなさい。私にも私の事情があるのです。」
そう小声で囁く。
「クッ、油断しましたっ!あの娘はまだ術に掛かりきっていませんっ!」
犯人側として現状の報告をした。
「はぁっ!?何やってんだ!?てめぇっ!!さっさと捕まえろ!!」
「当然です。さあ、次の『偶然』はありませんよ!」
少なくとも今は相容れないそういう意思がこもっていた。
バンッ!!
トレイ先生より放たれた弾丸は顔の横をすり抜け、後ろの壁に命中した。
トレイ先生は味方かもしれないが、何らかの事情で今協力を求める事は出来ない。
俺は小屋を飛び出し、闇に溶け込んだ。
外は雨が降っていた。
ずっと走り続け、周囲に気配が無くなったところで少し休憩を取ることとした。
案外簡単に撒けた。しかし追ってくる様子もあまり感じられなかった。
幸いにも夜目が効き、木の根などに突っ掛かたりする事はなかった。
「はぁ…はぁ…。トレイ先生…、どうして…。」
どうにも納得がいかない。脅されているのだろうか…?
周囲に何者の気配も無く、静けさの中でルナやアレス兄の顔が浮かんだ。
「ルナと兄様、無事に逃げられたかな…?」
実際三人目以降がいたっておかしくない。しかし確かめる手段も無く、今はただただ無事を祈るしかなかった。
改めて自分の身体を見つめる。
泥に汚れた外套を纏い、左の二の腕には消える事の無いであろう烙印が痛々しく残されていた。
右肩に目をやると致命傷では無いが確実に血が流れ続けている傷。
昨日までからはきっと思い付かない様な現状。
これからどうすれば良いのだろう?
今は正に当てもなく逃げてきた状態。
今自分が向いている先に何が待っているのかも分からない。
そんな暗中模索、五里霧中。
「寒い…、それにお腹…空いたな…。」
季節的に言えば夏だが、夜はそれなりに冷えるし、流れ続ける血は時が経つに連れ、確実に体力を奪っていく。
ずっと何も食べていない事も手伝い、まともに動ける様な状態ではなかった。
逃げてきたは良いが、このままでは力尽きるのは時間の問題だろう。
当然周囲に食べ物なんて無い。
「少し…休もう…。」
羽織っていた外套を身に引き寄せ丸くなる。
気を失うかのように俺は眠りについた。