17‐4裏切りの腹心
ギイッと扉が開けられる。
その姿は俺が何も知らなければ拍子抜けした事だろう。
それよりも俺は驚きと焦燥に息を呑んだ。
そこに立っていたのはゴスロリと呼ばれる時代を考えると少し派手に思われる程度の服装に身を包んだ見た目麗しい女性だった。
悪魔の様な人などと言われていたが実際そうは見えないだろう。
そう悪魔の様な、なんてとんでもない。
彼女はおよそ11年前と寸分違わぬ姿で、全てが変わってしまった俺の前に立っていた。
彼女は―――
彼女は本物の悪魔だ。
しかし、そのような事はおくびにも出さない。
何の因果か再び出会った、出会ってしまったが、こんな奴とは関わりが無いに越したことは無い。
「貴女が…!」
此処に来て初めて気付いたかの様に
「フーン…、貴女がねぇ…。」
どのような意味があるのかは知らないが、左目を瞑りジッと見つめる。
「フフッ、良くやったわ!貴方達!!」
突然の労いの言葉。
「一応始めましてね。ルナシアちゃん。」
場に沈黙が流れる。
自信満々に堂々とはっきりと間違えていた。
その沈黙をトレイ先生が裂く。
「あの…、お言葉ですが。そちらの方はルナシア様の姉のアティーニャ様でございます…。」
指摘としては間違っていないが再び沈黙する空間。
とりあえず犯人Aが必死に笑いを堪えている。
「一応始めましてね。アティーニャちゃん。」
彼女のとった行動は何事も無かったかの様に言い直す事だった。
そこで犯人Aが決壊した。
「ダッハッハッ!!ボスもなかなか『良いトコ』あんじゃねぇかっ!いやー、良いもんみたぜ!」
「う、煩いわねー!第一トレイ!貴方特殊属性持ちはルナシアちゃんだって言ってたじゃない!」
トレイ先生に当たりはじめる悪魔。
「えぇ…、確かにそう伝えましたが間違いは無い筈です。」
今コイツは特殊属性持ちを見分けた?いや、違う。現に間違っている。なら何を見た?
「…まあ、良いわ。どっちにしようと異分子には変わり無いわ。このままじゃ邪魔になるかもしれないし。加工しといて頂戴。」
加工?何だそれは?
「ボスも容赦無いっすねぇ…。」
何だ?何が行われるというんだ?
身の危険を感じ始める。
「何を…するんですか…?」
「あら、簡単よ?貴女を意思の無いお人形さんにするの。貴女人形みたいで可愛いし、丁度良いんじゃない?そうした方が売りやすいしね。」
人形?売る?何を言ってるんだ?
心の中では薄々感づいていた。
元々ルナに課せられていた運命。
少なくともこの国、表向きにはほとんどの国で禁呪指定を受けている隷属の呪印。
魔法を習う過程で少しだけ教えてもらった。
対象に印を刻む事で魂を縛り、意のままに動かすという物らしい。
「ま、後は私がいなくても大丈夫でしょ?私は先に帰るわね。」
「ボスは元々何もしてねぇけどな。」
ニヤニヤと笑いながら犯人Aがからかう。
「報酬減らすわよ。」
キッと睨みつけ、ボソッと言う。
「おっと、それは勘弁だな。全く…、今日は良く睨まれる日だぜ…。」
そしてあの悪魔は出ていった。
ほんの数分だったが、あまり心臓に良くない邂逅だった。
それよりもこの後に行われようとしている事が問題だろう。