17‐3裏切りの腹心
「どうした?ボーッとしてよ?今更決心が鈍ったなんて言うなよ?お前の元同僚と同じ事になるぜ?」
俺は目の前の現実を何処か遠い所で起こった事の様に見つめていた。
「…分かってますよ。」
「んじゃ、さっさとずらかろうぜ?」
『拘束〈バインド〉』
トレイ先生が魔法を掛ける。もう俺は抵抗する気も失せており、意味はなかっただろうが。
「んじゃ、行こーか。
『瞬間移動〈テレポーテーション〉』」
瞬時に周りの風景が町中より木々生い茂る森の中になっていた。
「ひゃはは、やっぱボスの魔法はすげーな。全くこれなら危ない橋を渡らなくてもたんまり金が手に入るだろうにねぇ。」
次々と起こる非現実に俺は付いていけなかった。
瞬間移動?ありえない。そんな魔法は存在しない。
少なくともアルマ先生から習った内容には無い。
仮に実在するとしてもこれほどの物が実用化されていないのはおかしい。
拳銃、瞬間移動、人の死。次々と自分の中の常識が書き換えられていく。
動けない俺をトレイ先生じゃない方の犯人が片手で担ぎ上げ歩いて行く。
その目的地はすぐに確認出来た。
忘れ去られた様なぼろ小屋。
逃げ込む場所としては正にという感じだった。
通信玉と思しき物を取り出し、
「もしもーし、例のガキ捕まえてきました。今小屋です。ご確認をー…。」
プッとすぐに通信は終わる。
「ったくよー。こんな所でちんたらしてないで、さっさとこのガキを売り払っちまえば良いのによー…。」
けだるそうに犯人A(仮)がぼやく。
「…ボスの望みです。仕方ありません。」
黙って聞いている限り『ボス』と呼ばれるこの事件の計画者がいるようだ。
「貴方達の目的は…何なんですか…?」
肩の痛みを我慢し問い掛ける。
血は未だ流れ続けているが致命傷ではない。
「あ?理由?何なんだろうな?俺は金だな。コイツは何かは知らんがな。」
「…言うほどの事でもありませんよ。」
「まっ、どーせ教え子や同僚に手ぇ掛けてまでの願いなんて俺と同じでろくなモンじゃねぇさ。」
カッカッと笑いながら話す犯人Aをキッと睨みつけるトレイ先生。
「おぉ、怖ぇ怖ぇ。まあ、後はボスがお前に会いたいとかだ。」
「…そのボスとは誰なんです?」
問題はそこだ。何故俺やルナを狙った?目的が金であれ、何であれ他にいくらでも効率の良い方法はあった筈だ。あんな魔法が使えれば尚更だ。
「さぁな。俺らも良く知らねぇよ。ただ出される条件と引き換えに俺らの願いを叶えてくれる悪魔の様な奴さ。」
今回は誘拐がその条件という訳か?しかしそのボスとやらが高いリスクを犯してまで今回の計画に到った経緯がまるで掴めない。
会いたかった?何で?ただの人売りなら売られる側の人間なんてどうでもいい筈だ。
その時お情け程度に建て付けられた扉の向こうに人の気配がした。
「おっと、来たようだぜ。命乞いでもしてみな。ちょっとは情けを掛けて貰えるかもしれねぇぜ?」
ゴクリと唾を飲み込む。
黒幕との、『ボス』との対峙だ。