17‐1裏切りの腹心
はい、長らくお待たせしました。
もし待って下さっている方々がいるなら本当に地に頭をつけても足りない位の感謝と謝罪を。
爆音が鳴り響く。
少なくとも日常では到底聞かない様な音だ。
後ろから聞こえた。嫌な汗がツーと流れる。
振り向くと人だかりが出来ていた。
何だ?どうした?といったざわめきだった声が聞こえる。
「キャアッ!!」
一人の女性の悲鳴が聞こえ、それに続く様にウワァだの大丈夫かだの医者を呼んで来いなど様々な叫びが聞こえる。
嫌な予感がする。というか間違いない。
「早く此処を離れましょう!!」
アレス兄に呼び掛ける。
「あ…、あぁっ!」
俺に声を掛けられハッとなったようだ。
「ルナも行こう!」
「え、えぇ…。」
その時ルナがもう一度人だかりの方を向いた。
その時人だかりは遠ざかる者、医師を呼びに行く者などで疎らになり、中心にいた人物が見える様になっていた。
中心に倒れていた人物が見えてしまった。
瞬時にルナが
「ゴスパさんっ!!」
倒れていたのは俺とルナのお目付け役になっていたゴスパさんだった。
ルナがゴスパさんの元に駆け寄ろうとする。
「行っちゃ駄目!!」
ルナを止めようとした。
ルナを止めようとした腕が空を切る。
…!間に合わなかった…。
「ゲホッ…!来ては…いけません…!」
ゴスパさんからも静止が掛かる。
ルナの足がビクッと止まる。
その瞬間だった。
バァンッ!!
「キャアッ!?」
再び爆音、そしてルナの悲鳴。
バタッ!
ルナが倒れ込む。
足を抑えている。
ルナのふくらはぎ部分から白い肌と対照的な赤い血が溢れ出すのが見えた。
「ルナッ!!!」
畜生っ!!何なんだよ!!?
飛び込んで行くのは危ない。しかしルナをあそこに放置するわけにはいかない。
ルナの周囲にそれらしき者はいない。犯人は恐らく中、遠距離から攻撃を行っているのだろう。
「お兄様、ルナを回収して向こうの路地裏に逃げ込みましょう。」
「よし…、分かった。」
緊張の色が浮かぶ。
「絶対に立ち止まってはいけません。」
ゴクリと唾を飲み込む。
「行きますよ!」
合図と共にスタートし、アレス兄がルナを抱え上げ走り抜ける。
その数瞬後、再び破裂音に近い爆音と何かが地面を削る音が聞こえた。
何とか路地裏に逃げ込む事には成功した。追撃も来ない。
しかし運の悪い事に此処は袋小路だった。犯人側としては無理に追い詰める必要も無く諦めて出て来た所を待つだけなのだろう。
怪我をしたルナを連れてここから逃げるのはなかなか困難に思われる。
完全に判断ミスだった。
…詰んだか。
「…俺が囮になる。その間にお前らは逃げろ。」
アレス兄がボソリと呟いた。
「だったら…!だったら私の方が足手まといです…!私を囮にして下さい!」
俺が此処で言うべき事は決まっていた。
「ルナじゃ時間稼ぎになりませんし、アレス兄様が危険を冒してはいけません。私に任せて下さい。大丈夫です、秘策があります。」
もちろん秘策なんてデタラメだし、これを信じる者は此処にはいないだろう。
「…どうするんだ?」
「詳しく説明している時間はありません。ただ私一人の方がやりやすいので兄様はルナを抱えてすぐ屋敷に向かって下さい。」
秘策なんてルナとアレス兄がこの場から逃げ出す事を躊躇わないように、苦しまないようにするためのただの言い訳だ。
「良いですか、兄様は公爵家の嫡子です。万が一があれば国全体にまで影響が及びかねません。」
本人だって分かってはいるだろう。
そういう俺やルナだって割と重い位置づけだろうがアレス兄よりはマシなものだろう。
「嫌だ…、行かないで…。行かないで!お姉様…!」
涙声でルナが俺に訴えかける。
「…ほら、泣かないで、ルナ。大丈夫だよ、お別れじゃないんだから。だから笑顔でいて、ルナは…、笑顔が、一番可愛いんだから…!」
「お姉様…、だって…。」
嗚咽を殺しながらに喋る。
あー、俺は今どんな顔してんだろ…。視界がぼやけて今ルナが笑ってるのかもまともに見えない。
だけど涙は拭かなきゃいけない。前を見なきゃいけないから。
『さよなら』は言わない。言う必要が無い。
俺は今荒れ狂う運命の中に飛び込もうとしていた。