16‐5運命の更新
急いでルナ達の元に戻って来た。
しっかりと玄関を通って。
「お待たせしました。」
「遅いですよ?お姉様。」
ルナが頬を膨らませ怒った振りをする。
「まあ、良いじゃないか。ほら、行くぞ?」
「「ハーイ。」」
そんなお気楽な雰囲気の中、俺は一人緊張感を張り巡らせる。
あの運命の予定日は11歳7ヶ月のいつか。
その期間に当てはまりそうなのは現在から二週間程度。
もしかしたら今日かもしれないし、明日かもしれない。
外出の際を狙う可能性は高いだろう。
しかしこれには一つ問題がある。犯人側の行動だ。
何故、犯人はこの外出を知っている?
公爵令嬢誘拐なんて大それた事、突発的に出来る筈が無い。
俺だってこの外出を今日になって知ったのだ。
犯人側が知る手立てなどある筈が無い。
犯人の計画はもっと別の所を狙っている…?
勝手な推測が頭の中でグルグルと回る。
そんな時不意に
「どうしたんだ、アティ?そんな険しい顔をして?まさか具合が悪いのか!?」
「あ、いえ、大丈夫です。ちょっと考え事を。」
「そうか。」
アレス兄がそっと耳打ちをする。
「…ホントに何も無いのか?お前の気の張り方が尋常じゃないぞ…?」
そんな事を言われ、今ならアレス兄が信じてくれる気がした。
「ルナが…その…、誘拐されるかもしれないんです…。」
誘拐、その言葉にアレス兄が真剣な面持ちになる。
「そんな話をどこで聞いたんだい?」
「…寝ている間に。」
言ってから後悔した馬鹿正直に言って信じて貰える筈が無い。
「夢って事か…?」
言葉に詰まる。夢じゃない、しかしそれ以外に説明しようも無い。
「フッ、アハハハッ。大丈夫だ、アティ!今日は俺もついているんだ。だから安心しろ!」
「笑い事じゃないんですっ!」
大丈夫だ、そう言って俺の頭に手を乗せ、掻き回すアレス兄。
「でも…!」
「いいか?アティ、それはただの夢だ。どんな怖い夢を見たってそれが現実に起こる訳じゃない。何も怖い事なんて無いんだ。良いね?」
これ以上は無駄だと自分でも悟った。信じて貰えない。
でも確かにそれが今日起こるとは限らない。俺がルナから目を離さなければ良いんだ。
そう自分に言い聞かせた。
何事も無く、町の見物を続ける。
ウィルディアは領主(父)の人柄もあり、あらゆる種類の人間が出入りする。そのため獣人以外がいても特別奇異の目で見られない。
つまりどのような人間が入り込んでいても不自然は無い。
排他的なのは好きではないが、この時ばかりは、この開放的な現状を嘆いた。
「そういえばメル兄様はどうしたんですか?」
外出なんてそれこそメル兄が喜びそうなイベントなのに…。
「あー…、あいつは補習だよ…。」
メル兄の(魔法以外の)成績を考えると納得だ。
「トレイ先生とマンツーマンらしい。」
ハハッと呆れ半分に笑う。
しかし本当に残念だ。
実はこの世界での犯罪件数というのは思ったよりも多くない。
単に治安が良いのではない。女子供でも魔法という武器を持っている可能性があるからだ。
そのうえ魔力媒体は指揮棒のような短杖や指輪に付いた宝石など小物が多く、一見すると丸腰のようで見分けがつかない。
そのため余程の事が無い限り事件は起こらない(もちろんゼロでは無いし、報告されてない物だってあるだろうが)。
つまり魔法のエキスパートであるメル兄がいれば、力強い事この上ない。
のだが、こんな時に限っていない。
とは言え眼前に広がるのは平和そのものの世界。
とても誘拐なんて物騒な話とは無縁に思える風景。
バンッ!!
そしてその日常を打ち壊す爆音。
その時確かに運命の歯車は狂い始めた。
超展開乙とか言われない様に頑張ります。