16‐4運命の更新
メイドさんの一人より、両親が食堂に居ることを聞き、真っ直ぐそちらに向かう。
そこでは夫婦仲良く紅茶を啜っていた。
「あら、アティ。起きていたの?」
「はい、つい先程。」
「今に始まった事ではないが、身体の調子は大丈夫か?」
「大丈夫です。どこも悪い所はありません。」
そう言って、飛び跳ねたりして調子の悪くない事をアピールする。
「それで、その…、相談があるのですが…。」
「何だい?アティ?」
そうしてルナ達に同行したい旨を伝えた。
「一応の為にもう一度聞くが身体は大丈夫なんだな?」
「はいっ!」
「なら、行って来なさい。」
「ありがとうございますっ!」
「くれぐれも無茶はするなよ?」
「…分かりました。」
その質問には素直に「はい」と言い切れなかった。
心の中でごめんなさいと呟き、食堂を後とする。
一度部屋に戻る。部屋履きのまま飛び出して来てしまったし、初めてのルナとの秘密の外出時に買った外套を取る為だ。
その道中アラン王子に出くわす。
「アティ!その…、先程はすまなかった。」
一瞬何の事かと首を傾げる。記憶を辿った。すぐに原因に突き当たる。
この時になって、ようやく着替え、ひいては全身を余すとこなく見せつけていた事に気付く。
顔が朱に染まっていくのが自分でも良く分かる。
激しく自己嫌悪。
「…忘れて下さい。」
「あぁ…、すまなかった。」
しかし素直に謝りに来るとは思ったより、律儀な奴なのかもしれん。
「ところで何故あんなに急いでいたんだ?」
言うべきか?
…伝えるだけ伝えておこう。
「例えば、殿下が大切な人がいなくなる夢を見たらどうします?」
「それはアティがいなくなるという事か?」
何でコイツはよく恥ずかしげも無く、本人前にしてこういう事言えるな。
「誰でも良いです。私はルナが誘拐されるなんて夢を見ました。」
「…確かにその者が心配になるな。しかし所詮夢ではないのか?」
そう、ただの夢。他人からしたら天界なんて存在せず、ただの妄想。
寝ている間に伝え聞いたなんて子供の話、同じ子供にも信じて貰えないだろう。
「そう、ですね…。所詮夢です。取り留めも無いただの空想。どうぞ戯言とお聞き流し下さい。では、私は急いでいます故。」
頭を下げ、先を急ぐ。
すれ違い様。
「もし、お前が悪い夢を見続けるというなら、俺は何処にいようとお前を迎えに行ってやる。」
とてもくさい台詞だった。
しかしその言葉が何故かとても嬉しかった。
俺は数年前ならこんな事言わなかっただろうなと自嘲気味に笑い、
「フフッ、待ってますよ。」
と答えた。
さて、思ったより時間を喰ってしまった。
部屋に辿り着き、靴を外出用に履き変え、ルナとの初めての外出で買った外套に手を掛ける。
とても地味な茶色の外套。買った時のサイズだから今は少し小さいがまだまだ現役だ。
今日で最後じゃない。またこれを着てルナと一緒出掛けたいから。
だから俺は運命を変えるんだ。
そんな決意を固め、ルナ達の元へと戻った。