16‐3運命の更新
天界より意識が戻り、身体が目覚める。
どうでもいいがこれって幽体離脱の一種みたいなものなのだろうか?
そして開眼一番に目に入った(というか覗き込んでいる)のが、アラン王子というのもきっとどうでもいい事なのだろう。
「目覚めたか?アティ?」
「目覚めたか?じゃありません。何故私の寝室に居るのですか?」
流石にキモい。何で人の寝顔ジッと見てるんだよ。
「何故?婚約者を心配するのは当然だろう。」
「とりあえず着替えるので出ていって下さい。」
「む、スマンな。」
ここで一つの言葉が引っ掛かった。
心配…?
「待って下さい!私は、私はどのくらい眠っていたんですか!?」
「取り乱すな。一日と少しだ。クロノス公より話は聞いた。持病だそうだな。全く、まるでおとぎ話だな。」
一日と少し?何でそんなに?
…あ、ルナの運命を見て気絶したんだっけ。
「…全く心配ばかり掛けて。まあ、またそのような所がまた良いのだがな。」
何か喋っているようだが聞き流しているので、ほとんど独り言だ。
「…ルナは?ルナシアは何処に行ったのですか!?」
ハッとなり、ルナの行方を訪ねる。
「ルナシア嬢か?ルナシア嬢は確かアレスト殿と町に行くと言っていたな。」
町!?まずい。絶対にまずい!
「まだ屋敷にいますか!?」
「どうしたんだ?そんなに慌てて?とりあえず落ち着け。」
「答えて下さい!屋敷に居るんですね!?」
「あ、あぁ…。まだ居るはずだ。」
まだ、まだ間に合う。
急げ…、急げ!
「っ!?アティ!?」
着替えを手伝って貰う時間すら惜しい。
急ぐあまりに生着替えを晒している事に俺は気付いていなかった。
一秒が惜しいので窓から直接飛び出す。
スタンッと華麗に着地をきめる。
後には呆然としたアラン王子が残っていた。
部屋履きのまま飛び出してきたので少々走りづらいが、気にしている余裕は無い。
日が高い。昼頃か?
最短ルートで正面口に向かう。
いた!!
まさに正門を出ようとしていたところだった。
「待って下さい!お兄様!ルナ!」
「アティ!?起きたのか!」
「お姉様!?」
ハアハアと息を整え、訴え掛ける。
「行かないで下さい!今日町に出てはいけません!」
「急にどうしたんだ?アティ?それに体の方は大丈夫なのか?」
ある意味当然のように不思議がられる。
「大丈夫です。とにかく町に行かないで下さい!」
「それは何故ですか?お姉様。」
何故って…。ルナが誘拐されるから、と言いたくてもそれはあまりにも非現実的過ぎる。
「それは…、その…。」
そのまま機転の効いた事も言えず、
「もしかして寝ている間に置いてかれそうになった事を拗ねているのか?その事は謝るが…。ただ今日は屋敷の中でしっかり休んでいてくれ、ほら、何かお土産も買って来てあげるから。」
そんな話じゃない。
「だから…!その…。」
「本当に心配してくれてるんだな…。大丈夫、何も起こらないよ。」
違う。何も大丈夫なんかじゃない。
…止められない。このままだと…。
「…それなら、それなら私も連れていって下さい!!」
「本当に体の方は大丈夫なのか?まだ休んでいた方が…。」
「大丈夫です。十分寝ました。」
止められないなら、こちらから出向いて変えてやる。
「まあ、大丈夫ならそれで良いんだが…。一応お父様とお母様に挨拶してこいよ?」
「絶対に!絶対に先に行かないで下さいね?」
振りじゃないかというくらいに念を押しておく。
「分かった分かった。行ってこい。」
急いで父と母に会いに行く。
くそっ…、この場で止められなかった。
しかし正直予想はしていた。ルナが誘拐されるなんて言える訳無いし、信じないだろう。
ならば、こちらが止まらないなら、次善としては犯人側を止める。
もっと以前からならまだしも現段階から可能な策ではその程度しか思いつかなかった。
もし、それが可能であるならこれが根本的解決となり、ある意味最善だ。
ローリスクローリターンに対し、ハイリスクハイリターン。
出来る限りリスクは冒したくない。だが何もしなければあの運命が現実となるだけだ。
俺は今、これまでの人生で最も過酷な所にいるだろう。