16‐2運命の更新
まずは情報収集だ。
実際俺は非力だと言える。ならば俺にとっての情報とは唯一にして、最大の武器である。
「問題は、この運命の発端はいつなのか、という話だな…。」
「えーと、ルナシアさんはこの世界での貴方の妹さんでしたか。」
「あぁ、一度意図せずとは言え、運命を変えちゃってるからこれ以上ルナの運命を悪い方向には持って行きたくない。」
「はいはい、フルネームはルナシア・ラグラン・トピアーゼですね。」
「うん、そう。」
「はい、見つかりました。」
「んじゃ、どうしてこんな運命になったかを俺は最後の方から辿る。今現在は無事だから11歳頃の時期から探してくれないか?」
「了解しました。」
正直、今となってはこの本に触れるのさえ恐ろしい。
だけどルナの為だ。
覚悟を決め、読みに掛かろうとする。
と同時に
「あ、見つかりました。」
早っ!?俺の覚悟を返せ!
「何歳頃!?」
「はい、11歳七ヶ月の項です。」
その言葉に唖然とし、思考が止まりそうになる。
「ハッ、ハハッ…、ハハハハハハ…。」
七ヶ月…?今月じゃん…?
真っ白になる、何も考えたくない。
どうして…?ルナが、俺が、何をしたんだよ?
ワケガワカラナイ。ナゼ?ドウシテ?
頭の中で疑問が答えも得られずに飛び回っている。
「落ち着いて下さい。浮影さん。」
「落ち着け?落ち着いてられるか!?ルナに危険が迫ってんだぞ!?」
「ならば尚更です。唯一の解決手段が取り乱してどうするんですか!?」
解決手段。その言葉で少しだけ落ち着いた。
「ルナの身に何が起こるんだ?」
事柄によっては、止められる。無理でも足掻いてやる。
「はい、ルナシアさんは誘拐事件に巻き込まれるようです。」
…誘拐?
「良いですか?現在あの世界に滞在中の天界の者はいません。貴方以外にこの運命を変えられる者はいないんです。」
最初から期待していないがルナシア誘拐事件を止められるのは結局俺のみという事か…。
そしてそこに一つの疑問が生まれた。
「…じゃあ、じゃあ何でこの運命が発生したんだ?」
一部の者の干渉が無ければ運命は変わらない。
そしてその運命を変えられるのはあの世界で俺一人。
つまりこれは、
俺の行動により引き寄せられたのか…?
「運命とは繊細です。始めはほんの少しのズレでも時の経過と共に本来の軸からのズレはより大きな物となります。」
「俺が数年前に仕出かした事が今になって影響が出て来たかもしれないって事か?」
「可能性の話ですけどね。あるいはもっと別な…。」
歯切れの悪い回答だが、重要なのはそこではない。
「なあ、どうしたらこの事件を止められる?」
「貴方の身の周りがどのようなのかは知りませんが、ルナシアさんから離れないのが重要では?」
解決手段でも何でも無い様なやっぱり大雑把な回答だった。
「…ありがとな。」
一言お礼を言う。目処も立たない今、助言にもなってないけど天使の言葉はありがたく感じた。
「しばらくはこっち来れないかもな。」
「無茶はしないで下さいね?」
「…善処するよ。」
正直これは約束出来ない。今無茶しないときっと後悔するから。
後ろ向きに手を振り、俺は天界を去った。