15-4招かれざる客人
俺は緊張した面持ちで木剣を構える。
対してアラン王子は割とリラックスしている。
失う物が無いんだから当然か。こちらの気持ちも知らないで…。
「では…、始めっ!」
とは言われても双方動かない。
俺の双肩に懸かっている物を考えると安易には動けない。
相手を良く見て、隙をついて一発で決める。
これがベストであろう。
ダッ!!
向こうから先に動いた。
ガンッ!!
右より横薙ぎに木剣が迫り、互いの獲物が交差する。
別段俺は腕が太い訳ではない。しかし獣人の筋力は男女差を埋め、拮抗した鍔ぜり合いを展開する。
このままでは、埒が開かないので俺が後ろに飛びのき、距離を取る。
「ふむ、やはり魔法剣でないとあまり良い動きが出来ないな。」
そういえばいつだったかメル兄と対立した時に炎の剣を見せていたな。
「それを理由に負けたなんて言わないで下さい…ねっ!」
地を強く接近する。スピードは悪くない。
しかし直後俺はこの接近を後悔した。
ガッ!
俺の手より獲物は離れ、宙を舞い、そして首筋には木剣が突き出されていた。
瞬時には何が起きたか把握できなかった。
「私の…負けです…。」
居合い。この世界には無いであろうと思っていた。加えて初めの相手からの接近で完全に念頭より消えていた。
「やっぱり普通の剣じゃやりづらいな…。」
何故木剣で良い動きが出来ないなんて言ったのかが分かった。
木剣は両刃の剣をモチーフとして作られた物であり、居合い斬りをするのには適していない形だ。
「…それは何処で学んだんですか?」
日本人としてどこかロマンを感じる日本刀と居合い斬り。是非学びたいと興味が湧いたので聞いてみる。
「この技か?三年前だったか。王城に一人の黒いドレスの女性が来てな。一週間くらい滞在していたのだがその時にその女性より教えてもらってな。」
加えて後は独学だそうだ。
「その黒いドレスの女性というのは?」
「俺も詳しくは分からないんだ。スマンな。」
少し落ち込んだ。王城の騎士とかならまだ教えて貰えたかもしれないのに…。
「…アティはこの技を変に思わないんだな。」
「…?どこが変なんですか?」
「ほら、あれだ。自ら立ち向かわず、相手を待つ。何か変じゃないか?」
立ち向かっていかないのは男らしく無いみたいなルールでもあるんだろうか?
「そんなの人の勝手じゃないですか。個性ですよ、個性。」
「個性…か。そういってくれたのはアティが初めてかもな。ありがとう。」
ミスった…。
また地味に好感度を上げちゃった気がする…。
「どちらも良い勝負でしたよ。お疲れ様でした。」
ディラン先生より労いの言葉がかけられる。
とりあえず双方無事に終わったが、今考えるとホントに色々危なかった気がする。
「お疲れ様、アティ〜。もう本当にあと少しで勝てそうだったのにね〜。レディに対して手加減も知らない様な王子にあるまじき振るまいをする奴に負けちゃったのはホント悔しいよね〜…。」
そろそろ王子権限が発動しないかメル兄の事が心配になってきた。
「安心しろ、アティ。次にこの剣を見せる時はお前を守る時だ。」
ニヤッと微笑み掛けてくる。
少しのイラツキと不覚にも少し格好良いと思ってしまった。