13-3六色の魔法と新担任
声を掛けて来たのはトレイ先生だった。
「変な声上げないでくださいよ。こちらがびっくりしてしまうじゃないですか。」
とは言うもののあんまり驚いた様子も無く、いつものニコニコとした表情だ。
それとも些細な違いがあるのだろうか?
何とも表情が読み取りづらい。
「あ、えーっと…、花を見ていたんです!」
と言ってみたが周囲には観賞に価するような立派な花は無い。
「花…ですか…?それにしてもそのはしたない座り方は…。」
座禅を組んでいる現在の姿勢。
勿論この世界に禅宗は疎か座禅なんて文化は無いためトレイ先生にはさぞかし珍妙な座り方に見える事だろう。
普通に考えれば淑女としてはこんな股を大きく開く様な座り方は完全にアウトだ。
とは言え別に恥じらいが無い訳じゃないが俺からしたら知ったこっちゃ無い。
「それに…。」
しかしこれ以上お小言も深く尋ねられるのも嫌だったので割り込む様に、
「そういえば先生の学院時代ってどのようだったのでしょう!?」
咄嗟に思いついた適当な話題を振る。
「え?学院時代って、私のですか?」
「はい、私も2年後には学院に入学せねばなりません。是非とも参考にさせていただきたいのです!」
咄嗟に思いついたにしては割とマシな言い訳だと思う。尋ねるタイミングがとてつもなく不自然だけど。
「うーん、そうですねぇ…。」
よし!食いついてきた!
「クロノス様を始めとして、キュベア様、アルマ君、リアンさん、ディラン君達が同級生だったのは知っていますか?」
「はい、学院時代から仲が良かったそうで。」
咄嗟に思いついた話題だったが思ったより興味が湧いてきた。
「皆学科は違っていましたが不思議と引かれ合いましてね。その中心となっていたのはあの頃からクロノス様でした。皆あの人の身分を笠に着ない気さくな態度と圧倒的なまでの才覚に惹かれていたのだと思います。」
なるほど、父のカリスマ性は生れつきかー…。
「前人未踏、いえ、今でもいないんじゃないですかね、あの人に勝る様なお方は。」
そこまで言わせるのか。
「トレイ先生とお父様はどのようにして知り合ったのでしょう?」
「出会いですか…。私は政治学科に属していたのですがね。常に次席でした。この結果だって決して悪い物では無いのですがちょっと悔しくなりましてね。首席がどんな人か恥ずかしながらも嫉妬にも似た感情で会いに行きました。その人こそが貴女のお父上、クロノス様です。」
ここで一つの疑問が湧く。
「あの…、お父様って武王とかって呼ばれるくらいですし、武術学科じゃなかったんですか?」
「あの人は可能な限りの学科を受けて、そしてそのほとんどで首席を取っていたお方です。」
うわー…、パネェ…。
前人未踏とか言わせるだけはあるな。
そんな父の嘘みたいな本当の武勇伝を聞いた夕方だった。
そして後から気付いた。
結局神力の修行何一つ出来てない…。