13‐1六色の魔法と新担任
俺は10歳となった。去年の脱走の後、ゴスパさんがいる事を良い事に俺とルナはたまに町に出かけるようになった。
ゴスパさんが最近疲れ気味な気もするがそれはきっと気のせいだと思う。
断じて俺達のせいじゃない。
そういえばリアン先生が産休に入った。相手は勿論ディラン先生だ。
トリークの件の後も結局リアン先生が教えてくれていたのだが、今回ばかりは仕方ない。元気な赤ちゃんが生まれる事を祈るのみだ。
そしてリアン先生に変わって新しい先生が来た。またも父の同級生で学年次席だったという実力者だ。
名前は確か…、
トレイト・ドマティ・エンヴァイ…だった筈。やはり長ったらしい名前で一文字、二文字間違えてたって不思議じゃない。通称トレイ先生。
子爵家の次男坊で魚人と呼ばれる種族だ。とは言え良く想像する半魚人とかというよりは、耳の近くにヒレっぽいのが付いてるくらいの普通の人間だ。エラがあるかは知らないけど水中での活動も可能だそうだ。
「…であるからしてここの計算はこうなります。」
今やっているのは数学、いや算数って言った方が適切かな?一番好きな教科だ。理由は一番楽だから。前世でもほぼ同じ物を習っていたし、高校でも一番数学が得意だった。とは言え基本が良くないから精々中の下が関の山だったが。
この先生の何よりの特徴は常にスマイルな事だ。
何が面白い?ってくらい常に笑ってる。顔が固定されてんじゃないか?ってくらいのスマイルっぷりだ。
「アティさん?聞いてますか?」
「あっ!はいっ!」
やべっ、余裕こき過ぎた。
しかしこの先生は、ニコニコするだけで特に怒らない。なんというか拍子抜けだ。締まらない。リアン先生ならここらで喝を入れてくるところなのだが…。
「では今日はここら辺にしましょう。」
この先生になってからのいつも通り、特に怒られる事も無く授業は終わった。
「ふぅ、終わりましたね。」
「ん〜、そうですね〜。」
グーッと伸びる。
「最近お姉様も怒られませんね。」
「だってあの先生優し過ぎますし。」
「そんなものですか…。でも良い先生だと思いますよ?」
元からあまり怒られない優等生ルナには分からないだろうが、これはこれで微妙なんだよな〜…。
「んー…、でも気が引き締まらないというんですか…。」
「そんなものですかね…。」
そんなものなのだ。
「でも怒りっぽい先生よりは良いですね。」
「まあ、そうかもしれませんね。」
そんな感じでルナと先生についての談義を交わした午後だった。