12‐3止まらない好奇心
この価格で良いのだろうか…?
物価が分からないのは大きなネックだった。
しかしいつまでも悩んでいる訳にも行かない。
「…わかりました。10サウンですね。」
「はい、毎度〜!!」
「おーい、ちょい待ちおばさん。」
そんな声が突如後ろから飛んでくる。
振り返るとそこにいたのは黒髪犬耳二十歳くらいのイケメソ。
「何だい?あんた?」
「俺が誰だって良いじゃないか。そんな事よりこんな無垢で無知そうな少女捕まえて暴利吹っ掛けるってのはどうなんだい?」
そう言って俺の頭を鷲掴みにするイケメソさん。
やはり頭を掴まれると耳が潰れるので少しイラッとするが敵ではない様だ。
「じゃあどうしろってんだい?」
些か不機嫌になる女店主。
「適正な価格で売ってやれってんだよ。」
やっぱりぼったくりだったのか…。もう少し物価を調べなきゃな…。
「こんな布っ切れ一つ1サウンで十分だろ。二着で2サウン。それが精々だろうよ。」
うわー…、通常の五倍とか…。それで買おうとしたとか良いカモだな…。
結局イケメソさんのおかげで2サウンで外套を買えた。
おばさんが不機嫌になっていたが暴利を吹っ掛ける様な店だ。二度と行かない。
お礼を言おうとしたらいつの間にかいなくなっていた。
彼は何者だったんだろうか?
追いかけようも無いので元来の目的である町を見て回る事とした。偶然会うかもしれないし。
外套を羽織れば視線は少なくなった。これで存分に見て歩ける。
町は見ているだけで飽きなかった。
雑貨屋には前世でも見た事の無い様な品々が。
八百屋を始めとした食品店には見た事の無い食材が(知らず知らずに口に入っている物はあるかもしれないが)数多くあった。
店先をぶらぶらと見て回るだけでも十分楽しめる。
ウィンドウショッピングって言うんだっけ?
勿論以前の外出の時だってほとんど同じ景色だったのだろう。しかしあの時は母に連れられ、加えて結果迷子で落ち着いて見られる状況では無かった。
こうして今町を見て回るというのはだいぶ新鮮な感覚なのだ。
それにしても前世と比べて俺の感性というのも結構変わってきたな…。
昔は思いっ切りインドア派で休日全く外出しない日だって少なくなかったのに…。
「お姉様、そっちは危ないですよ?」
ルナから唐突に注意が掛かる。
「そっちはスラム街ですし。流石にそちらに行くのは…。」
そちらに目をやると目に映るのはやせ細った路上生活者と呼ばれる人々。
スラム街…か…。
俺がここに生まれてた可能性だってあったんだろうな…。
そう考えると少しゾッとする。
現代日本で現在も貴族の令嬢としてぬくぬくと暮らす俺にはきっときつい生活だろう。
しかし可哀相と思ったって俺にはどうする事も出来ない。
俺にもっと力があったら分からないけど、少なくとも現状はどうしようも無い。
これは綺麗事なんだろうけど全ての人が笑顔になれる様な世界を作りたいものだ。