10‐3リアン先生の婚姻
こちらアティ、どうぞー
と何となく無線を使う真似をしてみる。本当に尾行とかで使うのかは知らないが。
スキップでもする様に浮かれている為尾行は割と簡単だ。
と思っていたら突然後ろを振り向かれ焦った。
危ねぇ!?
…冷静に考えれば三人一緒ならともかく自分一人で歩いているのが見つかったってどうという事は無いんじゃないだろうか?
尾行していて結構楽しいから良いんだけどさ。
この家で八年間のほとんどを過ごしてきた訳だから構造は完璧に把握している、隠れる場所などに関してはお手の物だ。
加えて少なくとも普通の人間より発達した五感、そして野生の勘とも言うべき第六感により気付かれる様な事はほとんど無かった。しかしそんな尾行に問題が発生した。
それはリアン先生の進行ルート。
恐らくこのままだと外に直接向かう気だろう。
リアン先生やアルマ先生そして面識は無いがディラン先生は住み込みで働いてる訳で一度部屋に戻ってそこで何らかの情報が手に入れば良いなと思っていた。
しかし外に直接向かうのであればそれ以上の追跡が不可となる。
まず、屋敷を中心とした半径30メートル程の外庭、隠れる場所も少なく、普通に遊ぶなら良い環境だが尾行には不向きな場所だ。
次に門番と塀、庭をぐるりと囲む様に高さ2.5メートル程の塀がある。外から中への侵入を拒む、俺からすれば中から外への脱出を遮る厄介な壁だ。
今の俺の身体能力を持ってすれば乗り越える事は不可能ではない。ただ確実に見張りに連れ戻される。
それに対し、正攻法(?)のリアン先生をこれ以上追うのは俺には不可能だった。
「…という訳でした。」
俺はそこで追跡を断念し、帰還してルナとメル兄に報告を行った。
「そうでしたか…。残念ですね。」
「う〜ん、部屋には戻ら無かったか〜…。」
「何かあるって事は分かったんですけどね…。」
そんなのとっくに分かっているのだ。問題はその相手が誰かだって言うのに…。
こんな箱入りな身分の自分が悔しい。
もう少し自由に行動出来たらなあ…。
でも見なくても予想される。きっと相手というのは本当に良い接し方をしてくれてるのだろう。
楽しそうなリアン先生を見れば分かる。
表面上だけでも良い。リアン先生を幸せにしてくれるなら。
出来る事なら自分の見える範囲の人には全てに全て幸せになって欲しい。
見える範囲だけというのは何とも独りよがりな考え方だろう。
だけど全てを救える程の力は俺には無く、見える範囲を救うだけの能力は有るのだから。せめて精一杯の事をしよう。それが俺のこの世界で出来る事なのだから。
だからこそリアン先生にも幸せになって欲しいのだ。