9‐3入学式と一つの決心
「お…え……、お…え様!、お姉様!」
ハッと目を覚ます。
目の前には覗き込む様に王子の顔。
「キャッ!」
我ながら可愛らしい悲鳴だ。
というか王子、女性の寝顔を覗き込むとは如何なるものでしょう?
「起きたか?式はもう終わってしまったぞ?」
あー…、完全にやっちまった…。
駄目だ。昔からこういう行事=睡眠時間の等式を覆せない。
「アティ〜、起きた〜?」
ケラケラ笑うメル兄。
メル兄も寝てたクセに…。
「ところでアティ〜。この人誰〜?」
そういえばメル兄はアラン王子と初対面か?
「初めまして、お義兄さん。アーランド・ドトノック・ディアマントです。アティの婚約者です。」
おい、待てコラ。言葉では分からないが字も恐らくおかしい。
「結婚する気はありません!」
ったく、コイツは油断も隙も無い…。
「ふ〜ん…。」
いや…、ふ〜んって…。
「あの…?お兄様?仮にも王子殿下ですよ?」
「お前もお前で仮にもとは何だ?」
うん、気にしない。何かもう心のどこかでコイツを王子と認めたくない。
「いや、王子ってのはさ〜、名前聞けば分かるよ?」
「ならどうしてですか?」
分かってて?ますます分からない。とりあえず頼むから面倒な事に発展させないでくれ…。
「ん〜…。だって僕、その人嫌い。」
…は?
何を言っているんだ!?この人は!?
「ちょ、ちょっと待って下さい!?メル兄様!?嫌いってそんな何でですか!?」
子供同士とは言え、この発言は流石に問題に成り兼ねない。
「流石に面と向かって嫌いと言われたのは初めてだな。」
微妙に威圧感が増してる気がする。つーか多分普通に怒っている。
「殿下も落ち着いて下さい!」
あーっ!もうっ!何でメル兄はこうも次々問題を引き起こすんだ!?
「じゃあ、アティ?聞くけどさ、アティは殿下の事好き?」
一瞬思考が止まった。
「えっと、それは…その…。」
でも正直、少なくとも好きではないと思う。
会ってまだ一週間。一目惚れを否定しないが国のトップがそんなのでは困る。あと何度も言うが俺は男だし。
「言葉に詰まるって事は、好きではないんだよね?僕は嘘を付くのは苦手だから。正直に言っただけさ。」
的を射ている様な気のするメル兄の発言が突き刺さる。
「そうか…。お前は俺を今は好きじゃないんだな…。」
「殿下…。」
悪い事したな…。
ん…?『今は』…?
「だが、俺はお前を諦めない!いつかお前の気持ちが変わるまで何度でも立ち直る!」
ちょっとでも可哀相とか思った俺が馬鹿だった…。
もう呆れを通り越し、感心の域に入る気がする。
頼みますから惚れるならルナにしてください。俺よりよっぽど良いから。
口に出そうが出さまいが 意味がなさそうだから言わないけどさ…。
どなたかこの暴走王子を止めて下さい。