番外編 非運命的出会い
結局大した量では無いですがいつもよりは長め。
俺は既に人生という物にいくらかの絶望を覚えていた。
何ひとつ昨日と変わらぬ今日、変わる物は勉強の内容くらい。
この前弟も生まれ、代用もいる存在。
そんな変わらぬ日々に今日ひとつ変わった事があった。
廊下に一人佇み泣いている同い年程の少女。
別に見捨てても良かった。
しかしこの少女は自分の何かを変えてくれる。そんな有り得もしない淡い希望と共に話し掛けた。
「お前こんな所でどうした?」
「あのっ…、迷子になってしまって…。」
迷子か…。初めて見る顔だ。白い虎の耳から獣人と思われる、そういえば今日トピアーゼ公爵が来るとか言われた気がした。その娘だろうか?
「…貴方も迷子?」
想像以上に失礼な奴だった。
「そんな筈あるかっ!俺は…!」
ここで言葉を遮られる。
「言わなくても良いよ。私も迷子だって告げるの恥ずかしかったから。」
私もって完全に俺も含まれてるな…。
反論する気も失せる。
本当はここで見なかった事にだってできる。
しかし俺にはできなかった。公爵家の娘という可能性もさることながら、興味とはまた違うがそれに近い様な感情より少女から目を離せ無かった。
「お前はどうしてあんな場所にいたんだ?」
少女も泣き止み、落ち着いたのを見計らい尋ねる。
「言ったでしょ?迷子だって。お父様と妹と逸れたの。貴方も似たようなモノでしょ?」
いっそ開き直っている感すらある。
そして俺の迷子認識は変わらないのか?
「だーかーら!俺は違う!俺はな…。」
またしても遮られる。
肩に手が置かれ、少しドキッとする。
自分何をこうドキドキしているのだろう?
「大丈夫、そこから先は言わなくても察してるから。」
この少女は何を言っているんだ?
「…本当にお前は理解しているのか?」
甚だ疑問だ。
しかし、こうした礼儀や体面を無しとした会話等いつ以来だろうか?
自分の立場もあり、仕方ないかもしれないが話し掛けてくるのは上辺だけのおべっか使いのみ。
後に思えばこういう所に惹かれたのかもしれない。
とりあえずこの少女の父親を探すのも兼ねて出口に向かっていた。
「これは何処に向かって歩いてるのですか?」
少女が尋ねる。
迷子だから当然とは言え、何も知らずついてきたのか…。
「とりあえず王城から出るべきかと思ってな。」
一瞬納得したようだったがすぐに
「道が分かるんですか!?迷子なのに!」
もう反論する気も失せた。
「俺は何回迷子を否定すれば分かって貰えるんだ?」
俺はもう呆れていた。
どうもこの少女と話しているとペースを崩される。
背後から
「アティ!」
誰かを呼ぶ声が聞こえる。
少女が振り返る。
「お父様!」
今更になって互いに名前も知らなかった事に気づく。
なるほどアティと言うのか、この少女は。
少女がこちらに向き直る。
「ありがとうございました。おかげで父も見つかりました。」
少女が微笑む。
不覚にも見とれてしまった。
「あ、ああっ!良かったな。」
そして同時に自分のこの少女に対する気持ちに気付いた。
俺はこの少女が好きなのだ。見捨てられなかったのではない。自ら惹かれていたのだ、この少女に。
この少女は直感通りに俺を変えてくれた。
自分の気持ちに気付き、世界の価値観が変わった。
この世界に絶望していたのが嘘みたいだった。
そして決めた、この国をこの少女、全ての国民にとって素晴らしい国にしようと。
俺の視界は大きく変わった。