6‐5魔法への過信
朝食後、俺は脇目も振らずにアルマ先生の部屋に向かった。
トントン!
「どうぞ?」
「失礼します。」
部屋に入る。相変わらず整頓された部屋だ。
「これは、アティーニャさん…。気持ちの整理はつきましたか?」
「はい、お蔭様で、昨日は迷惑をおかけしました。」
ペコリと頭を下げる。
まずは昨日の謝罪。先生からの制止の言葉を聞かずに逃げ出しちゃったし…。
「良いんですよ。気にしなくても。それよりも今後、魔法はどうなさるおつもりですか?」
昨日の事があったんだ、やめても仕方ない。ただ言いづらいだろうから先生からきっかけを作ってくれたんだろう。
しかし俺の意志は固まっている。
「魔法をやめる気はありません!ですので今後ともご指導ご鞭撻の程よろしくお願いいたします。」
今日の用件二つ目。魔法を続ける意志を見せる。
「!そうですか。良い心掛けです。では再び頑張りましょう。」
少し驚いた風だったがすぐに認めてくれた。
そして今日の三つ目の用件。
「話は変わりますが、魔力媒体とは杖以外にはどのような物があるのでしょうか?」
天使が言うには原因は少なくとも魔力量では無い。ならば魔力媒体とやらの線から潰すのが早いと考えた。
「魔力媒体ですか…。確かにその可能性も十分に有り得ますしね…。」
考え込む。
「まず代表的な物は昨日の様な杖ですね。これも厳密には長さや材質、また魔力的性質など様々な点で差が出るので杖一本を取っても多彩なんです。」
適した魔力媒体を探すのが簡単かと思ったがこれは想像以上に困難かも知れない…。
「でも先生も兄様も杖を持っていませんでしたよね?」
杖以外の魔力媒体を使っているのだとしたら俺にもそれが適合するかも知れない。そんな希望を乗せ尋ねる。
「はい、僕の魔力媒体は…。」
服の中からペンダントを取り出す。
「これに付いてる魔石と呼ばれる物です。」
魔石…。見た目は宝石か何かの類のようだ。
「魔石と相性が良かったのならこれを使えば私も魔法を使えるでしょうか?」
「これでは恐らく厳しいですかね…。」
「どうしてでしょうか?」
「僕はこの魔石を学生時代から使っていたものですから多分他人の魔力では動かないかと思われるので…。」
良く分からんがとりあえず自分用って事か…。
基本他人の魔力媒体は使えないらしい。
「なるほど…。メル兄様は何を魔力媒体としているのでしょう?」
メル兄は確か魔石らしき物も所持していなかった筈だ。
「メルキウス君は特別なんですよ。僕も分からないのですが魔力媒体がいらないのか、それとも常にある様な物を媒体としているのか…。本人も良く分かっていないようです。」
魔力媒体いらずか…。途中経過を飛ばして結果を残す辺りがメル兄らしい。
それにしても魔力媒体が人によってかなり違うようだ…。
自分に合った物を見つけるのは大変そうだな…。
最初はこの世界でなら魔法を使おうと思えば使えると信じていたがまさかここまで困難な物とは想像していなかった。
いつになれば俺は魔法使いのスタートラインに立てるのだろうか?
そんな疑念がよぎる、そんな弱気になる自分を振り払い、また地道に頑張ろうと心に決めた。