5‐1魔法学の指針
鬱な時間が迫っていた。何が嫌かって魔法が習えるのはこの上無く嬉しい事なのだが問題はアルマ先生だ。
メル兄はリアン先生の手に負えなかった。しかしそんなメル兄を片手間に抑え込むのが彼なのだ。
俺にとっちゃリアン先生だって十分脅威なのだ。そしてアルマ先生は彼女を遥かに上回る。
お屋敷で温室栽培の俺が言うのもあれだが、野生の勘が伝える。彼はヤバい。大事な事なので二度言おう。
彼はヤバい。
「お姉様大丈夫ですか?顔色がよろしく無いですよ?」
ルナが心配してくる。
「えっ!?あっ!?大丈夫!!問題ありません!」
口にしてから後悔した。
こんな鬱なら仮病でも使って今を切り抜け、ライブライブラリーで下準備万端にしてくれば良かったのに…。
しかし彼無くして魔法を習う手段は恐らく俺にはない。これは問題の先延ばしでしか無い。受け入れるしか無いのだ。
「おーい?アルマー?居るか?」
ある部屋の前で止まる。こっちの棟にはあまり来た事が無い。もちろん彼の部屋にも初めて来る。
あー…どうしよう…。頭痛と腹痛と動悸が同時に来ている気分だ。とゆーか実際来てんのか?
ガチャッ!
「はい、何でしょうか?クロノス様。」
うっ…部屋に居たよ…。
居なきゃ困るけどさ…。
「アルマ、娘達にも魔法を教えてくれないか?」
ちらっと俺達に視線を向ける。
「お嬢様方にですか?失礼ですがまだお早いのでは?」
「アレスにも言われたよ。しかし娘達の意気を無駄にしたく無いからな。」
「は、はあ…。」
困った様子で考え込むアルマ先生。
俺の中でも習いたい意志と先生への恐れが葛藤している。
「とりあえず立ち話も難ですし、こちらへ。」
アルマ先生が部屋に招き入れる。
ニコニコしているが俺には悪魔のにやけ面にしか見えない。
彼を悪魔と例えるならあの扉は差し詰め地獄の門だろうか?閻魔の審判も無しに俺はただ地獄に招き入れられるのみだった。
先程は地獄と形容したが中は意外と整然としていた。魔法使いの部屋というのは魔導書や大窯なんかがあって足の踏み場も無いというイメージがあったのだが。
アルマ先生にソファーに座るよう促される。
「ではまず自己紹介でもしましょうか?何度か見掛けたかも知れないし、昨日も会ったけど僕は、アルマ・ドマティ・ジーナスと申します。どうかよろしく。」
此処は自己紹介して、いくらでも話のきっかけを作ろう…。
「私はアティーニャ・ラグラン・トピアーゼです。」
良かった…噛まずに名前を言い切れた…。フルネームがホントに長い…。
「その妹のルナシア・ラグラン・トピアーゼです。」
「しっかりしてますね。聡明なのは聞いていましたが。」
「当たり前だ。私の娘だからな。」
此処でも親バカは健在だ。こっちとしてはスゴイ恥ずかしい。
「さて、自己紹介も終わりましたし、本題に入りましょうか?」
面と向かって話すのか…。何か気が重い…。
初めてアティとルナのフルネームが出せたという…。
作者の中では
名前・地位・家名という風にして名前を付けております。