番外編 家族の心配
クロノス(父親)目線で書いてみました。
いつもと変わらない朝だった。静寂を破る様に…
トントンッ!!
少し間隔の早いノックであった。
「どうぞ。」
「失礼しますっ。」
メイド長のミーシャだった。しかしいつに無く焦った様子だ。
「どうした?」
「はいっ!お嬢様が…!アティお嬢様が目を覚まさないんですっ!」
言っている意味が理解できなかった。
「それは…?それはどういう事だ?」
「はい…」
アティの部屋へ向かいつつミーシャから話を聞く。ついでにアティを毎朝起こしているメイドからも話を聞く。
朝アティを起こしに行ったメイドが言うには、いつもの様にアティを起こそうと部屋に入った、しかし呼びかけようと揺り動かそうと起きなかったので慌ててミーシャを呼び、ミーシャが試しても駄目だったので、私を呼んだのだそうだ。
ふむ、子供たちに接する事が出来るのは私が本当に信頼する者のみとしている。
となると私の目に狂いが無ければ、外的要因があるとすれば、身内では無い。
アティの部屋に着いた。確かに眠っている。揺り動かすが結局整った寝息が聞こえるのみだ。
死んではいない…。ただ眠っているだけだ。
まず根本的な原因は何だろうか?
病気?毒?呪い?はたまた別の何か?
不安が募る…。
分からない。このような場合は専門家を呼ぶべきなのだろうか?
「あなた?騒がしいけど何かあったの?」
妻のキュベアだった。
「ああ…。」
妻にも事の経緯を説明した。
「アティちゃんが…。どうしましょう…。」
事の経緯を知り、狼狽する妻。
「原因が分からない、だから考えられる可能性全てを全て潰すしかない。」
「どうしてアティちゃんがこんな事に…。」
妻の哀れなまでに狼狽する様子と原因不明のこの事態が私を酷く苦しめる。
斯くして国中からアティを目覚めさせる事の出来そうな者を呼び集めた。
しかしあらゆる手を尽くそうと無駄だった。
「お父様…?お姉様…大丈夫ですよね?」
ルナが不安そうに尋ねる。
「あぁ…。きっと目を覚ますさ。大丈夫。」
不安なのは私だってそうだ。しかしこの子たちにそれを見せる訳にはいかない。
「メル兄様…。お姉様大丈夫かな?」
「きっと僕みたいに寝過ぎちゃってるだけだよ。」
ルナは本当に心配で仕方ないようだ。会う人、会う人に質問している。
今の私にはどうにも出来ない。そんな歯痒さが残るのみだった。
アティが眠り始めて二週間。
アティを起こす為に来訪した者が500人を越した。しかし誰もぴくりと動かす事もできなかった。
お伽話を信じてか既成事実を作ろうとでも思ってか接吻を交わそうとする不届き者まで現れる始末だ。勿論ご丁重にお帰り頂いた。
巷では『眠り姫』との噂まで立っているそうだ。
こちらはそんな暢気な状態なんかではないというのに…。
十五日目―――
何の前触れも無くアティが目を覚ました。
不覚にも涙がこぼれる。
ギュッと抱きしめた。感触を懐かしむ様に、愛情の深さを伝える様に、この小さな娘がどこかへ行ってしまわぬ様に…。
少し苦しそうだったがきっと私達の気持ちはこの娘に伝わっただろう。