3‐5眠り姫発寝(はっしん)?
目覚めると家族がいた。
起き上がると皆一様に両の目に涙を湛えていた。
「「アティッ(ちゃん)!!」」
両親からの熱い抱擁を受ける。ちょっと苦しい…。
「急に目覚め無くなって…。原因も分からず…!どうすれば良いのかと!!」
本当に心配してくれていたんだな…。
「ゴメンなさい…。お父様…。お母様…。」
心からの謝罪だ。
「でも本当に…!本当に無事に目覚めてくれて良かった!!」
心配も当然か…。五歳の娘が急に目覚めなくなるんだもんな…。
「アティ!!」
「はいっ!」
急な呼びかけに反射的に返事をしてしまう。
呼びかけの主はアレス兄だった。
「俺は、俺は…原因不明で眠っているお前に何もしてやれなかった…!こんな不甲斐無い兄を許してくれっ!!」
振り下ろす様な勢いで頭を下げてくる。
「兄様…。でもきっと私が目を覚ませたのは兄様のおかげです。兄様が呼んでくれたからこそ私は目覚めたのです。」
天界に意識が軟禁状態だったから目覚め無かったのだが、まず信じて貰えないだろうし、こうでも言わないとこの人は自分自身を許さないだろう。
「うぅ…アティッ!アティッ!」
やばいな〜…。すごい罪悪感…。
「アティ〜。おはよ〜。」
少し間延びした様な声で話してくるのはメル兄だ。
「はい、少し眠り過ぎちゃいました。」
そんな事態では無いがちょっと冗談を飛ばしてみる。
「ふふっ、僕じゃあるまいし。」
普段通りの調子だが、頬にはしっかり赤い涙の跡が残っている。
俺はこんな家族に心配を掛けさせるとは何と愚かなのだろうか。
そして…
「お姉様っ!」
ルナだった。
「お姉様が目を覚まさなくて、それで、それで、もうずっと目を覚まさ無いんじゃないかなんて考えて!それで、それで…!」
「ゴメンね…。ルナ…。心配掛けさせちゃったね…。」
泣き腫らした顔を見ると余計に胸が苦しくなる。こんなかわいらしい顔が涙やらでぐちゃぐちゃだ。俺は男として失格だな…。今は女だとかの屁理屈も出てこない。
「でも…、本当に良かった…!」
パッと花が咲く。
…俺はきっとこの笑顔を守る。心に誓った。この神力もライブライブラリーという能力もこの娘の為に奮おう、そう誓った。
どうでもいい事だが俺を起こす為に国中から医師や魔法治療師、果てには祈祷士、呪術士まで駆け付け、ことごとく断念し、その末に公爵家の『眠り姫』として噂が広がったのはその後日の話である。