24‐6奇人変人ときどき常識人
「今度こそだ。今度こそこっから出るぞ!?」
見えない力でも働いているかのようにことごとく妨げられてきた。
扉を開ける、そこには誰もいない。
出ようとする、引き止められない。
ついにストラドさんは外への一歩を踏み出す事に成功した。
「よっしゃ!出られたぞーっ!!」
大声でその喜びを表現する。端からの視線は冷たかったが今のストラドさんには関係無いことだろう。
いや、本人も周りの視線に気付き、少し縮こまる。
「まぁ…、さっきまでのがありえない偶然の連続だったわけで…。」
「ま、それもそうだな。で、どこ行きたい?」
「え…、どこって?」
「ボスに言われただろ。この金でいろいろ準備整えろって。」
あぁ…、そういえば。濃いキャラの人ばかりと触れ合って忘れかけていた。
「じゃあ、お風呂入りたいです。」
「風呂…?いや、まあ良いんだが…。」
「しばらくまともに汗を流せてなかったもので…。」
しかも最近暑い。
「そうだな…。よし、一風呂浴びるか!」
存在自体は一応以前から聞いていた。しかし、この世界の銭湯に当たる所に来るというのは初めてだ。
「あれ…、間違っても混浴じゃありませんよね…?」
ふと不安になる。
「大丈夫だったはずだ。そういえばこういう所来んのは初めてか?」
「えぇ、屋敷に備え付けられていましたから。」
驚き、というよりは次元が違いすぎて呆れに近い表情が伺えた。
「なんつーか、やっぱスケールが違うな…。」
そこら辺は一応自覚はある。
中に入ると赤と青の暖簾が下がっている。本当に元の世界の銭湯みたいだ。
「二人分だ。」
ストラドさんが受付にお金を渡し、青の暖簾をくぐる。
「一人で大丈夫だよな?」
「当たり前です!!」
少し荒々しく赤の暖簾をくぐる。
脱衣所で服を脱ぐ。
あまり意識していなかったが、肩を上げた時に少し痛みが走った。
トレイ先生に撃たれた傷だ。
まだ…、一週間も経ってないんだよな…。
今は前に進む事だけを考え、家族やあの事件を意識しないようにしていた。
思い出してもどうしようもない。そこから先に進むのが嫌になり、立ち止まるだけだから。
でも意識しだすと途端に止まらなくなる。
「ダメ…、切り替えなきゃ…。」
浴場に駆け込む。まだ真昼間という事もあり、人影は見えない。
貸し切りだ、と喜ぶ気持ちではなかった。
顔をバシャバシャと洗う。泣いてるんじゃない、濡れてるだけだ。
湯を被り、身体の汗や汚れを一通り洗い流し、湯に浸かる。
公共の場だけあり、屋敷よりはいくらか広い。
「ふぅー、気持ちいい。」
自らをごまかす様に呟く。
肩の傷にいくらか染みるが気にする程でもない。
というか治りが異常に早い。
当初は困惑したが、これは後から判明した事だが神力が無意識のうちに自然治癒力へと変換された結果らしい。
魔法を使って小さな氷を作り出してみたりした。
湯に浮かび、小さくなり、やがて消えていった。
自分が魔法を使える様になったというのがこの上なく嬉しかった。
これも結局気を紛らせる為の行いなのだろうが。
上がるとストラドさんが外で待っていた。
「随分と長風呂なんだな。」
「良いじゃないですか。ゆっくりしたかったんです。」
「で、他には?金貰って風呂入りたかっただけとかじゃねぇだろ?」
「はい!今日は一日付き合ってもらいますよ?」
笑顔で確認を取ると頷いてこそいたが、ストラドさんの大きなため息が聞こえた。
というわけで、人物紹介回でした。
前回の番外編でモーガンと名前出しても気づいた人はいないでしょう。
作者も名前思い出す為に読み返しましたw
個人的にはディーナが好き。
後は全般に死に設定にならないよう頑張りたいです。