23‐6早起きと初出勤
「それで、まとめ直しますと…。まず私の生まれは没落しかけの貴族で…。」
「そうそう、そっちの方がアティちゃんの物腰の軟らかさとかが説明しやすいしね。」
彼女が相槌を打つ。
「それでついには売られてしまうことになり、隷属の呪印を刻まれてしまい…。」
「そこでその腕の烙印に説明がつくわね。」
「そこを間一髪でストラドさんが助け、そこから懐いて今に至る、と。」
「これでストラド君との関係の説明も大丈夫ね。どう?だいたい完璧じゃない?」
探せばボロが出そうだが、赤の他人が聞く分には十分だとは思う。
「で?結局なんで俺の苗字使うんだよ?適当な偽名でも問題ねぇだろ。」
ストラドさんは不満があるようだ。
「そこは…、ほら、フェイは俺が守る!とかフェイは俺のモノだ!みたいなストラド君の優しさアピールになって良さそうじゃない?」
「絶対アイツらにからかわれるだけだと思うんだが…。」
ストラドさんの不満は止まらない。
「いや、不満なら良いのよ?今度はあらゆる手を尽くしてさっきのストラド君の話を誇張して吹聴するわ。」
ストラドさんが目に見えてげんなりとする。
「分かった…。もうコイツの苗字が俺のでも良いから勘弁してくれ…。」
対して彼女の方は随分満足げだった。
「うん、仕方ないから許してあげるわ。」
ストラドさんから大きなため息が漏れた。
その後俺の事に関する様々な細かい取り決めが話された。
基本的に俺の正体に関してはシークレット。一部の真実を知る者に父からそのように伝えられているらしい。その辺の情報操作はグッジョブと言うほか無いだろう。
ついでに『アティーニャ』の最期を聞いた。
死因は病死。元々不定期な長期睡眠などの兆候はあったが、ついに永眠。
眠り姫が永眠とは何とも笑えない話だ。
ルナ達はライブライブラリーで見たのと違わず、ひどい悲しみ様らしい。
今すぐにでも会いに行きたいし、せめて無事だけでも伝えたい。
しかしそれは叶わぬ願いで、半端な希望は反って絶望を与え兼ねない。
また自らの無力さに歯痒さを覚える。
そんな時ストラドさんの手がポンッと頭に乗せられる。
「無事だっただけマシじゃねぇか。アイツらぶっ飛ばしてそれで解決だろ。」
「そうね、そこまで単純ではないけど。全てが潰えたわけじゃないわ。」
「はい…!」
涙が零れそうになった。
でももうあの日に涙は流しすぎた。だから、もう泣かない。
全てが終わって、そしたら家族の元で存分に泣こう。
それまでは強く、アティーニャという名を捨て、フェイとして生きていく。
今日がその始まりの日になるだろう。