23‐4早起きと初出勤
「あの…、コレ、どう考えますか?」
懐からずっと持ち歩いていた弾の切れた拳銃を取り出す。
彼女も少し興味を示したようだ。
「あら、随分物騒な物を持ち歩いてるのね。」
捨てるに捨てられず結局ずっと持って来てしまっていた。
「で、それはやっぱり昨日の話に繋がるのかしら?」
俺はコクンと頷いた。
「誘拐犯の一人の、私の元先生が護身用に持たせてくれました。」
「なるほどね〜。ま、悪魔が関わってるなら納得って物ね。」
「やはり、少なくともこの世界の今の時代にはコレは無いんですね。」
彼女は小さく頷いた。
「そうね、ここまでの物はまだ無いわ。まったく…、人様が平和維持してる世界に何持ち込んでくれちゃってるのかしら。」
その顔には呆れと微かな怒りの様な物が見て取れた。
「そういえばどうしてこんな人間に協力的な事してるんですか?」
悪魔といえば何かもっとこう…、世界に混沌を!! みたいな事しそうなイメージがあるが…。
「んー…、気まぐれと成り行きからかな?別に信念とか使命感で動いてるわけじゃないわ。」
やっぱそんなんなのか…。
「というか別に悪魔は人間の敵では無いわよ?結果として人間が堕落することはあっても始めから敵意があることは少ないわ。例えば人間は犬を可愛いがる事はあっても始めから敵意を剥き出しにする人はそうそういないでしょ?」
それもそうだが、悪魔にとって人間は犬程度に過ぎないものか…。
姿形は似ていても取るに足らない存在という事か。
「ま、それでも私は変わり者に分類されると思うわ。悪魔としての働きは最近ほとんどしてないしね。」
「悪魔って主に何してるんですか?」
「わかりやすく言うなら天界との陣取り合戦かしら?」
陣取り合戦…?
「たくさんの世界がある中で各世界の覇権を悪魔が握るか天使が握るかを争ってるの。それで、この世界はどちらかと言えば天界よりの世界なの。そんな中で奪い返すだとかそんな活動もせず、平和に、一般人に紛れて暮らしているんだから、異端といえば異端の存在ね。」
まあ…、悪鬼羅刹の如く暴れ回っているよりはマシかな…?
「ま、何だかんだで今の暮らしも結構好きよ。」
その表情は確かに充足感のあるものだった。しかし同時にどこか憂いの感じられるものだった。
「実はね、私も昔はそれなりに悪魔っぽくやんちゃしてたのよ。それでね…。」
何か突然回想に入りはじめた。
止めるのも気が引けるし、黙って聞いておくべきだろうか…?
そんな事を考えていたがお構いなしに彼女の話は続いた。
結局俺は相槌を打つしかなかった。