23‐1早起きと初出勤
目が覚めると隣にまだ寝ているストラドさんがいた。
心細さと自分だけベッドに寝るという事の気まずさから一緒に寝ると言ったのを思い出した。
今思い返すととんでもない発言だ。
とは言え服の乱れや身体の異常は感じられず、やはり信頼に足る人物だったようだ。
辺りはまだ日が昇りきっておらず、薄暗い。
二度寝をするには目が覚めきっている。
ストラドさんを起こすのも悪いので静かに階下に降りる事とした。
一階の酒場はまだ朝早い事もあり、とても静かだった。
酔い潰れたのかテーブルに突っ伏して寝ている人もいる。
「おはようございます。」
突然背後より声を掛けられ、背筋がピーンと伸びる。
「これは失礼、驚かせてしまいましたか?」
振り向くとそこにはこの宿場兼酒場の主人がいた。
「えっと…、おはようございます。すみません…、まさか人がいるとは思っていなかったもので…。」
まだ少しバクバクと鳴る心臓を抑え、挨拶を返す。
「いえいえ、それにしてもお早いんですね。まだストラドさんは寝ておられるでしょう?」
「はい、私だけ目が覚めてしまったもので…。」
主人がジッと俺を見つめる。
「何かありましたか…?」
「これは失礼。なかなかお綺麗な顔立ちですのでつい見惚れてしまいました。」
「あら、嬉しいですね。」
やはりこういう所の主人だけあり、人の扱いには長けているようだ。
「お詫びに牛乳でもいかがです?」
「…じゃあ、いただきます。」
一瞬迷ったが、カウンターに着く。
少し待つとジョッキになみなみと注がれた牛乳が目の前に差し出される。
「女性のお客様などだいぶ久しぶりですので、何かご不満な点などございませんでしたか?」
「いえ、大変居心地が良い宿でした。」
強いて言えばベッドの寝心地が少し悪かったが、天蓋付きの最高級と言える物と比べるのは酷だろう。
「あと質問ばかりで悪いのですが、貴女とストラドさんの関係を教えていただけませんか?」
何と答えれば良いのだろう…?
「あ、別に深い意味もありませんし、無理にとは言いませんが…。実は昨日貴女の話で盛り上がりを見せ、貴女とストラドさんの関係で賭けが始まってしまったので…。」
なるほど…。
「ちなみに一番人気は愛人となっております。」
飲みかけていた牛乳を吹き出しそうになる。すんでのところで留まったが。
「そんな関係ではありませんよ。そうですね…。上司と部下ですよ。」
うん、これが今は事実だし、一番しっくりくる。
主人も理解したように頷く。
「私からも質問いいですか?ストラドさんは、私と出会う前はどのような方だったのですか?」
少し困ったような表情を見せた後口を開く。
「少し…、ずるい回答ですが、それは本人を見て、そして本人から聞いて下さい。でも、今のストラドさんは本当に嬉しそうですよ。」
ほとんど何も分からない回答だった。
もっと聞こうとしたが、階段よりストラドさんが欠伸をしながら降りて来た。
ジョッキの牛乳をぐいっと飲み干した。
「ごちそうさまでした。また別の機会にお話をお聞かせ下さい。」
頭を下げると主人もニコリと会釈した。