番外編 ギルド幹部会
『ボス』視点です。
「さて、と…。」
天界側の人間が味方に加わるとは思ってもいない収穫だった。
天界の事情など興味は無いが、無いよりは遥かにマシだろう。
あの程度なら寝首を掻かれる様な事も無い。
むしろ無力過ぎて愛らしくなってきたほどだ。
あまりにうまく行き過ぎているくらいでつい口元が綻んでしまう。
会議室としている所の扉を開け放つとストラド君が他多数にボコられていた。
手を鳴らし、注目を集めさせる。
「はい、続きは会議終わってからね〜。会議始めるわよ〜。」
一部まだ満足がいかないようだが、皆渋々と席につく。
「はい、じゃあこれより緊急会議を始めます。とは言ってもそこまで急を要する訳じゃないから気楽にね。」
皆無愛想に頷く。一名ほど舟を漕ぐように頷いている奴がいるが。
「まず、内容はね〜、国王より。近頃聞き慣れない神を信仰する信徒が増えている、国内の宗教の乱れは良からぬ事に繋がり兼ねないため調査して欲しい、との事よ。」
皆この話に対し、様々な反応を見せる。
「それでまあ、各々何かのついで程度で良いから情報を集めといて頂戴。」
俯せて完全に寝ているストラド君を除き、皆から肯定の意思を表示される。
「後は適当に近況報告を頂戴。」
話し合う事も無くなり、今日の会議は終了を迎えようとしていた。
「あ、最後に。今日晴れてうちに加入する子が来たんだけどどこか人手足りない所ある?」
スッと挙げられる手。
「まず、どのような人物か教えて頂けますか?」
それもそうだ。
「性別は女で、歳は12、種族は獣人で貴族の出よ。」
想定外のプロフィールに皆チラチラと辺りを窺う。
そこでピンッと挙がる手が一つ。
でもコイツは…。
「きっと可愛いんスよね?なら、貰ってもいいスか!?」
やっぱりそうなるか…。黙っとけよ、このロリコン…。
「とりあえず保留、というか却下。」
ガクッとうなだれる。というか通ると思ったのか…?
「他には?」
静かに手が挙げられる。
「はい、期待してないけどどうぞー。」
「最近、被験体、足りない。」
うん、やっぱ駄目だった。
「部下としてなら良いけど被験体としてなら駄目よ。」
「じゃあ、被験体、兼部下。」
「被験体を抜きなさい。」
「…じゃあ、いらない。」
この無駄なこだわりは何なのだろう…。
「どう?モーガン?」
頑張ってよ、うちの唯一の良心。
「私は…、あまり少年少女は部下として扱いたくないので…。」
フゥ…、とつい溜め息が出る。
そして寝ているストラド君を除いて唯一まだ反応していないソイツの方を向くと両手を前に突き出し首と手を遠慮がちに振っている。
溜め息が漏れる。このままじゃあまりにアティちゃんが不憫すぎる。
懐より杖を取り出しつつ、熟睡中のストラド君に近づく。
「ねぇ、起きて〜?ストラドく〜ん?」
杖の先っぽでストラド君の頬を突く。
「んあ?何だよ…?」
寝ぼけているようだ。
杖をストラド君の眼前に突き付ける。
「三秒以内に手ぇ挙げろ…!」
柄にも無く、ドスを効かせた声で言ってしまった。
「ハイッ!!?」
状況が当の本人は全く飲み込めていないようで困惑している。
「3…、2…、1…。」
1が読み上げかけた瞬間両手が高く掲げられる。
「はい、ストラド君にけって〜。お疲れ様でした〜。今日はお開きでーす。」
解散を告げる。
「おいっ、ちょっと待て!?何押し付けられたんだよ!?」
さっきまでぐっすりだった奴が飛び起きてきた。
「アティちゃんのお世話よ。これで私からの遅れてきた分の罰はチャラにしてあげるわ。」
「だが、何で俺なんだよ?」
「まあ、別に貴方じゃなくても良いんだけど…。その場合色々とストラド君の為にならないと思うな〜?」
指を鳴らしつつ笑顔で問い掛ける。
「あ、はい…。慎んで承らせていただきます。」
素直に受け入れてくれるようだ。
「あ、それとね。ホールでアティちゃんが待ってるから早く行ってあげなさい。それに私『は』、許したけど他の皆はまだ気が済んでないようだしね〜。」
その言葉にサッとアティちゃんを迎えに行ったようだ。
実に熱心でよろしい。
走って行くストラド君の背中を見送り、私は再び資料に目を落とす。
アティちゃんの件といい、何となくただ直感で、嫌な事が起こりはじめている気がした。