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番外編 少女の信頼

ストラドさん視点です。

ガヤガヤとした賑やかな様子が外からでも伺える。

ここに来るのは三週間ぶりか…。

傍らの少女、信じられない事に元大貴族の娘、は慣れない空気に緊張しているようだった。

「おら、緊張すんな。別に悪い奴はいねぇよ。」

「は、はい…。」

「あー、だがフードで一応顔隠しとけ。いくらか絡まれづらくなるかもしれん。」

どうも緊張は抜け切らないようだから、せめて目立たないようにしてやんないと。

「ありがとうございます…。」


ここは一階は酒場、二階は宿となっている。

俺自身疲労が極限まで来ているのもあって出来る事ならさっさと寝たかった。

しかし構造上酒場を避けて通る事は出来ない。

「腹括るか…。」

意を決して開き戸に手を掛ける。

中に入ると先程までの騒がしさはどこへやら、静まり返り全ての視線がこちらを向く。

面子は殆ど見慣れた奴ばかりだった。

視線が一斉に集まったせいかこちらのお嬢様はすっかり怯え後ろで縮こまっていた。

「久しぶりじゃねぇかストラド!いつ以来だ!?」

「おう、久しぶりだな。」

また別の奴から

「しばらく見ねぇからくたばっちまったかと思ったぜ!再会を祝って飲もうぜ!」

「悪ぃ、今日は疲れてんだ。どうせお前はいつもここで飲んでんだからまた後でな。」

「違ぇねぇ!そん時は奢れよな!」

「あぁ、奢ってやる、奢ってやる。」

もう何でも良いからこの場を切り抜けさっさと休みたかった。

「ンで、そっちのちっちぇ連れはどちら様だい?」

チッ…。一番触られたく無かったところだ。

コイツらに気にすんなという方が無理だろうが。

外套の下の尻尾がピーンとなっているせいで顔を見ずとも驚き、緊張しているのが伝わる。

「おう、そうだ!ずっと気になってたんだ。新入りなら顔ぐらい見せやがれってんだ!」

ハァ…、この酔っ払い共が…。

「あの…、見せなきゃ駄目ですかね…?」

おどおどとした小声で問い掛けてくる。

「お前が良いなら良いんだが…。」

自分ながら無責任な言動である。

覚悟を決めたのかフードに手を掛け、スッと取り去る。

その瞬間、いくらかざわめきを取り戻しつつあった空間が再び凍りつく。

てっきり歓声が上がるくらいのものだと思っていた。

皆が皆嬢ちゃんを見ている、いや見とれている。

「…おい。」

「あ?何だよ?」

「あいつスゲー可愛くね?」

「あぁ…、つーかあいつはストラドの何なんだ?」

「…!おいっ、ストラド!その娘はお前の何だよ!?」

あー、めんどくせぇ…。

想像以上に注目を集めてしまったようだ。

「めんどくせぇから後で説明してやる。今は俺を寝させろ。さもないとこの場でテメェら叩き斬っぞ…!」

睨みを効かせ、少々強引に事を進めようとする。

「チッ…、分かったよ。ぜってぇ忘れんなよ。」

「あと奢んのもな〜。」

はぁ…、やっと進める…。

カウンターの向かいにいる主人に話し掛ける。

「マスター、部屋二つ空いてるか?」

「おや、そちらのお嬢さんとは一緒に泊まらないのですか?」

「あぁ、つーかここベッド一つしかねぇだろ。」

「いや、そうですけども…。しかし生憎本日一つしか部屋の空きがございません。」

…なんてこった。

「お、一緒に寝んのか!?」

変な期待の眼差しがこちらに向けられる。

「うっせぇぞ!ンな訳ねぇだろ!!」

癇に障ったので一喝入れておく。

「とりあえずその一部屋借りるぞ。あと適当な布一枚貸してくれ。」

「はい、3サウンになります。」

金を手渡し、さっさと二階に上がる。

これ以上この騒がしい空間にいたくなかった。



「そんでだ。嬢ちゃんはこの部屋で寝ろ。ま、貴族様のベッドに比べりゃ固ぇ板に寝てるようなもんだろうが、いくらかマシだろ。」

「ストラドさんはどうするんですか?」

「俺はもうどこでも寝れるから良いんだよ。」

何でも良いからさっさと寝たい…。

「あの…、襲わないって約束してくれるなら一緒に寝ませんか…?」

まさかの申し出だった。

「心配ありがとよ。でもいらねぇ。一人で寝れるだろ?」

「その…、不安なんです…。だから一緒に寝てくれませんか…?」

いつまでも譲り合うのも面倒だった。

「…分かったよ。嬢ちゃんが良いなら良いんだけどよ…。」

そうして俺達はまさかの同じベッドで一夜を過ごす事となった。別に変な意味は無いが落ち着かない。

先に寝たのは嬢ちゃんだった。

全く以って無防備だ。あんな口約束を信じるとは、つくづく甘い。

それとも俺を信じているのか…。

考えるのも疲れてきた。

「ったく、甘ぇんだよ…。」

そう言って頬を引っ張って伸ばしたが、起きる様子も無く、自分も眠くなってきたので寝ることにした。


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