22-5目指せ正社員
その手を取った。
「あら、意外とあっさりね。悪魔の下で働くのよ?もう少し考えなくても良いの?」
躊躇いが無かったわけじゃない。
でももう決めたんだ。
「良いんです。不安もありますし、少し怖いですけど…。でも、ストラドさんもいますし、悪い所じゃないと思います。」
他に行く当ても無いし、何となく彼女はアイツとはまた違う気がした。
「ふーん、随分と懐いているというか信頼しているのね。」
一度信じるって決めたから。だから今回もストラドさんを、延いては彼女を信じる。
「まったく…、こんな可愛い娘にここまで頼られて…。失望させたら承知しないわよ…。」
彼女はポツリと呟いた。
「とりあえず、その…、私は何をすれば良いのでしょうか…?」
結局何をすれば良いのかは全く分からない。
「あぁ、うん。今日は何もしなくて良いわ。ストラド君がやっと帰って来たからお仕置きよりも何よりも先にお話し合いしなければいけないの。」
やっぱり…、迷惑掛けたかな…?
「あ、別にあなたは何も悪くないのよ?」
少しうなだれたのが気にかかったようだ。
「あなたはまた明日ここに来てくれれば良いわ。」
明日か…、そういえば泊まる所ねぇや…。
「あの…、私今お金も、夜を明かす所も無いんですが…。」
この人に言うのも筋違いかもしれないが、これが現代日本の生活+温室育ちから来る甘えだろう。
「そうね…。会議は三時間くらいで終わると思うから待ってて頂戴。少しくらい脅してでも無理矢理ストラド君にお持ち帰りさせるから。」
…何かごめんなさいストラドさん。
このギルドの待合室と思しきホールのような所で普通に三時間待った。
王都を見てきても良かったのだが、一人出歩くのは何かと怖いものだ。
魔法が使えるようになったという事でこんな魔法が良いなとか想像していれば、結構あっという間に過ぎ去った。
「あ、ストラドさん。」
「あー、嬢ちゃん。俺が良く使う宿屋紹介してやっからさっさと行くぞ。」
何か急いでる感じ…?
「はい…、ところで少し顔変わりました?」
何か腫れてる気がする。
「あー、これか…。さっきぶん殴られた。とりあえずさっさと行くぞ。」
急かされるままギルドを後にした。
町は夕闇に包まれかけ、俺とストラドさんを引き離した程の人通りも今はいくらかまばらになっていた。
「あ、明日から一緒の立場ですね。」
とりあえず話題を振ってみる。
「同じじゃねぇよ。俺が嬢ちゃんの直接の上司だ。」
「…?そうなんですか?」
「半分無理矢理させられた。」
やはり彼女せいだろうか…。
「俺の予想じゃ、部下とか以前に嬢ちゃんにゃ入ることも無理だと思ったんだがな。何か気に入られるような事でもしたのか?」
「それは…、秘密です。」
俺としても、多分彼女にとってもあまり知られたくない事である。
「何だそりゃ…。」
「良いじゃないですか、女性は二つ三つ秘密があるものですよ。」
「はっ、そうかい…。ほら、見えてきたぞ。」
ストラドさんの視線の先には何やら賑やかそうな酒場のような店があった。あれだろうか?
「あぁ、少し絡まれるかもしれんが、あんまり気にすんなよ。」
少し不安になってきた…。